第1部<デファクト競争>
Qi規格がロケット・スタート
出遅れ組は技術優位性で対抗

電気製品から電源コードをなくすワイヤレス給電技術。実用化がいよいよ本格的に始まった。規格争いで先行したのは携帯端末向けの「Qi」規格。街中にまで充電環境が整備されだした。クルマへの給電では、磁界共鳴方式が有力だ。道路など社会インフラが変わる可能性がある。

インフラへの浸透が始まる

 「2011年度中に、ワイヤレス給電機能を搭載した携帯電話機を100万台販売する」(NTTドコモ プロダクト部 第二商品企画担当の南部洋平氏)──。

 ワイヤレス給電はその名の通り、無線で電力を供給する技術である。無線通信が広く普及する中、電気製品を縛る最後のケーブル、つまり電源コードをなくすという点で大きな注目を集め始めた。技術開発が本格化してからわずか数年しかたっていないが、端末だけではなく街中のカフェ、住宅やオフィスの家具、映画館、ホテル、百貨店などのインフラまでも変えようとしている。

 特にNTTドコモの発表は、他社のワイヤレス給電開発関係者を驚かせた。発売する端末の数の多さだけでなく、インフラを見通した普及戦略が明確だったからだ。

 さらにこの発表は、これまでワイヤレス給電の競合技術が乱立する中で、いち早く規格化を果たした技術がそれまでの混戦から大きく抜け出したことを示すものであった。それは、「Qi(チー)」と呼ばれる、電磁誘導技術に基づく業界規格である。規格化できていない「その他大勢」の技術群を置き去りにしつつある。

Qi規格登場で動き出した実用化

 Qi規格は「WPC(Wireless Power Consortium)」という業界団体が策定した。WPCは、ワイヤレス給電のデファクト・スタンダードを作ることを目的に、2008年12月に設立された団体。同団体が策定した規格に準拠した機器には、Qiマークが付く。Qiマークのある機器であれば互換性を確保でき、異なるメーカーの製品間でも充電が可能だ。

『日経エレクトロニクス』2011年11月28日号より一部掲載

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第2部<電磁誘導/電界結合方式>
水平方向の位置自由度を競う
各社各様の工夫が明らかに

他の方式に先駆けていち早く量産にこぎ着けた電磁誘導方式のQi規格。各社の製品を分解したところ、フリー・ポジショニング実現への工夫点の相違が浮き彫りになった。一方、競合技術の電界結合方式もタブレット端末への採用を決め、存在感を強めている。

水平面内の位置自由度で勝負

 さまざまなワイヤレス給電技術の開発が競うように進む中、ロケット・スタートを決めた電磁誘導方式のQi規格──。電磁誘導方式は、「枯れた技術」ともいわれるほど歴史は古い。既に要素技術の検討から、実装時の工夫に開発の主眼が移っている。

 電磁誘導方式を手掛ける各社の競争軸は、送電台上のX-Y面、つまり、水平方向の位置自由度をいかに高めるかにある。電磁誘導方式は原理的に、垂直方向への給電が難しい。そこで、欠点を補うべく水平方向の位置自由度を高めようと、実装時にさまざまな工夫を施しているのだ。

 水平方向の位置自由度の高さを訴求するのは、電磁誘導方式だけではない。電極間に発生する電界を利用して電力を伝送する電界結合方式も、送電台のどこに携帯機器を置いても給電できる「フリー・ポジショニング」の特徴をアピールする。

 本稿では、市場への普及度合いで先行するQi規格などの電磁誘導方式と、ようやく一部で製品化が始まった電界結合方式を、製品の分解などを通して比較する。発売済みの製品の内部分析を進めたところ、水平方向の位置自由度を高めようと各社が施した努力の跡が見えてきた。

『日経エレクトロニクス』2011年11月28日号より一部掲載

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第3部<磁界共鳴方式>
Z方向の自由度はさらに向上
実装上のノウハウが勝負を左右

位置合わせの自由度が高い磁界共鳴方式だが、一方で課題も多い。電子機器や人体への安全性が未確認であることや、システムの最適化が容易でないことだ。アイデアとノウハウを地道に磨いたメーカーが、技術や市場をリードしていく可能性が高い。

磁界共鳴方式の実用化には課題が山積

 磁界共鳴方式のワイヤレス給電技術は、位置合わせの自由度の高さ、特に送電台ないしは送電コイルに対して垂直方向(Z方向)の自由度の高さが最大の特徴である。

 この技術に期待するメーカーは多い。しかもその分野は家電から住宅、自動車、産業用機械と多岐に渡っている。例えば、ソニーは「テレビなど家電製品に壁越しで給電できれば便利だろう」(同社 コアデバイス開発本部 高周波伝送・映像システム開発部門 RF・信号処理開発部 統括部長の藤巻健一氏)という。同社が初めて公開した磁界共鳴方式の実演も、テレビへの給電だった。

4台の3Dメガネを同時に充電

 韓国Samsung Electronics社は既に、磁界共鳴方式に対応した3Dテレビ向けの専用メガネ(3Dメガネ)と充電器を、日本を除く世界各地で発売している。同社はWireless Power Consortium(WPC)にも加盟し、携帯端末向けに電磁誘導方式の充電ジャケットなどを製品化している。その上で、「電磁誘導方式は給電の際、送電コイルと受電コイルが1対1に縛られる限界がある。一方、磁界共鳴方式は、送電コイル1個から、複数の受電コイルに同時に給電できる点で、より応用範囲が広いと考えている」(Samsung Electronics社 Standards & Technology Enabling TeamのHaeyoung Jun氏)とする。実際、磁界共鳴方式の3Dメガネは、同時に最大4個を1台の充電台に置いて充電できるのが特徴である。

 しかし、技術的な強みを持つ一方で、磁界共鳴方式であるが故の課題もある。

『日経エレクトロニクス』2011年11月28日号より一部掲載

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