この9月以降、ハイブリッド技術に頼らず燃費を大幅に向上させたモデルが相次いで登場した。前モデルに対し、ダイハツ工業が40%、マツダが22%、三菱自動車が12~15%の向上幅である。この中にはJC08モード燃費で30km/Lを達成したクルマもある。エンジン単体で燃費を上げる余地はまだまだあるし、エンジンの需要は増える。エンジン開発の仕事は、これからも続く。(浜田基彦)

Part1:伸びしろは十分

EV、HEVなど次世代車と共存、技術も市場も急速に成長中

エンジンが進歩し、低燃費車が続々と現れている。EVやHEVにシェアを取られても響かないくらい自動車全体の販売台数が増え、エンジンの需要も増える。来るのはどんなICE AGE(内燃機関の時代)なのだろうか。

 ここ数年、HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、EV(電気自動車)、FCEV(燃料電池車)といった次世代車が自動車技術の話題の中心にいる。
 自動車技術会の春季大会のプログラムから電気・電子関連のセッションを拾ってみると、1990年には「エレクトロニクス」というセッションが2コマあっただけなのに対し、2011年には「グリーン・カー・エレクトロニクス」が2コマ、「最新のEV、HEV技術」が4コマ、「自動車用燃料電池システムおよび要素技術」が1コマ、合計7コマに増えている。確かに「EV、HEVが将来有望である」ことは間違ってはいない。
 ところが、勢い余って「エンジンは成熟技術である」「次世代車に押されてエンジンの将来は暗い」とエンジンを切り捨てる人がいる。あたかもエンジンに“氷河期”が来るような印象を与える。
 それは大きな誤解である。今、エンジン開発部門で、それをひっくり返すような冗談が交わされている。確かに「ICE AGE」は来る。ただしそれは「氷河期」ではなく「内燃機関の時代」だ…というのだ。ICEは「氷」でなく、「内燃機関(ICE=Internal Combustion Engine)」の略だというわけだ。

以下、『日経Automotive Technology』2012年1月号に掲載

Part2:各社の最新機種

【ダイハツ工業】
JC08で30km/Lを達成、圧縮比、タンブル、そしてイオン電流

今のところJC08モードで30km/Lというガソリンエンジン車として最高の燃費記録を誇るのがダイハツ工業の「ミラ イース」。燃費は従来の「ミラ」に比べて40%向上した。40%のうち14ポイントがエンジンの貢献である。

 エンジンは以前からある3気筒の「KF」(図1)。圧縮比を10.8から11.3に上げた。日本のレギュラーガソリン仕様では直噴を除けば最高である。
 圧縮比を上げれば必然的に増えるノッキングを抑えるため、燃焼室周りの冷却を強化した。具体的にはシリンダヘッドのうち燃焼室の天井に当たる部分の厚みを約5mmから約4mmに減らした。燃焼室の表面から冷却水まで熱が伝導する距離を1mm減らすことにより、燃焼室の壁の温度を下げた。
 この壁の厚さは強度上必要な厚さに鋳造による誤差を加えたものである。今回は誤差の方を小さくすることで壁を薄くした。このために鋳造する時の中子の位置精度を上げた。中子は「けれん」などを使って位置決めをするのだが、Al(アルミニウム)の溶湯よりも中子の密度が小さいため、中子が浮き上がってしまうことがあり、多少の誤差を見込んでいた。今回は生産現場が中子の固定方法を見直し、浮力で動かないように改善して厚さ4mmを達成した。

以下、『日経Automotive Technology』2012年1月号に掲載
図1 「KF」エンジン
ポート噴射では最高の圧縮比11.3を誇る。

【マツダ】
三つのSKYACTIV-G、制約受けつつ車種を拡充

「SKYACTIV」エンジンを発表して“エンジン重視”を表明したマツダ。2011年の6月に「デミオ」、続けて9月に「アクセラ」と、SKYACTIV-Gエンジンを載せた車種を立て続けに発売した。しかし、両車のエンジンには大きな違いがある。

 9月に部分改良したアクセラのうち、排気量2.0Lのエンジンを積む前輪駆動車にSKYACTIV-Gエンジンを積んだ。15インチのタイヤを装着した車種の燃費は20km/L(10・15モード)、17.2~17.6km/L(JC08モード)で、排気量2.0Lクラスのガソリン車で首位だ。
 アクセラの発表の際に、マツダはSKYACTIV-Gエンジンに三つの段階があることを明らかにした。「燃費SKYACTIV」「バランスSKYACTIV」「本格SKYACTIV」である(図2)。
 「SKY-G」として2010年10月に発表したコンセプトエンジンは本格SKYACTIVである。集合部まで600mmという極めて長い4-2-1の排気管を採用していた。これがノッキングを防ぎ、高い圧縮比を可能にする。SKYACTIV-Gの重要な一要素である。
 ただし、4-2-1排気管を収容するには、そのための場所が必要であり、はじめからSKYACTIV-Gエンジンを載せることを前提に車体を設計する必要がある。4-2-1排気管を採用した本格SKYACTIV-Gエンジンは2012年に入ってからSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)「CX-5」で市場に出る。

以下、『日経Automotive Technology』2012年1月号に掲載
図2 3種類のSKYACTIVの位置づけ
これからは4-2-1 SKYACTIVを拡充していく。

【三菱自動車】
リフト、タイミングの両方を一つの機構で変える、SOHCとして背の低いエンジンを実現

ガソリンエンジンの進化の一つのテーマである可変バルブ機構に、新顔が現れた。従来は可変リフト機構と可変タイミング機構を別々に装備していたが、三菱自動車が開発した「新MIVEC」は、両方を統合した。

 三菱自動車は可変バルブ機構「新MIVEC(Mitsubishi Innovative Valvetiming Electronic Control system)」を装備した排気量1.8LのSOHCエンジンを開発した(図3)。2011年10月20日に一部改良した「RVR」、同じく27日に一部改良した「ギャラン フォルティス」「ギャラン フォルティス スポーツバック」の一部に積んで発売した。
 従来使っていたDOHCエンジンと同じトルク、出力を確保しながら10・15モード燃費が12%、JC08モード燃費が13~15%向上した。燃費への寄与率は可変バルブ機構とアイドリングストップが半々だという。値上げ幅は1万350~6万3500円。優遇税制を考慮するとユーザーの払う金額はほぼ横ばいだ。

以下、『日経Automotive Technology』2012年1月号に掲載
図3 「ギャラン フォルティス」に積んだ「4J10」エンジン
SOHCとしたため、可変バルブ機構を入れたにもかかわらずエンジン高は従来通り。フードは部分改良前と共通だ。

【日産自動車】
ダウンサイジングにセオリーなし、スーパーチャージャとポート噴射で特徴出す

ダウンサイジングエンジンといえばターボチャージャ過給+筒内直噴というセオリーがある。ドイツVolkswagen社が提案し、多くの他社が追従してすっかり定着している。日産自動車はこれに異を唱えた。

 日産は2013年に発売する予定の過給エンジン「QR25DER」を10月上旬に開催した「先進技術説明会」に展示した。4気筒の「QR25DE」が基本だ。現在、排気量3.5LのV型6気筒エンジン「VQ35DE」を載せている「エルグランド」「ムラーノ」などに使うことを想定する。トルク、出力は3.5LのV6並み、燃費は2.5Lの直4並みというダウンサイジングエンジンである。
 まず、3.5L・V6を2.5L・直4にすることによって摩擦損失を大幅に下げる。さらに吸気弁を遅閉じとしてミラーサイクルとする。この2点で失ったトルクを、過給で取り戻す。
 過給機はターボでなくルーツ式のスーパーチャージャ(図4)。スーパーチャージャのクラッチはなくバイパス弁で制御する。インジェクタは直噴でなくポート噴射だ。
 このエンジンはHEV(ハイブリッド車)用に設計した。HEV用であるため、スロットル損失の大きい部分負荷はモータに任せている。日産はダウンサイジングと同じくらいダウンスピーディングが大切と考えている。ダウンスピーディングというのは回転数を下げることによって機械抵抗損失、ポンプ損失を下げ、その分負荷を上げることによってさらにポンプ損失を下げようというものだ。このため同エンジンは基本的に低回転で使う頻度が高い設定としている。結果として「1000rpmで全開」、という低回転、高負荷を使うことが多い。これはターボの最も苦手とするところであり、スーパーチャージャの出番だ。

以下、『日経Automotive Technology』2012年1月号に掲載
図4 中央が米Eaton社製のルーツ式スーパーチャージャ
このカットモデルではスーパーチャージャが見えるように配管を切ってあるが、スーパーチャージャで圧力を上げた空気は下に抜け、右で折り返して左に戻り、上のインタクーラに向かう。下がバイパス弁。