「実習 FTAの使い方」は、信頼性解析技法の1つであるFTA(Fault Tree Analysis、故障の木解析)について、不具合の原因となる部品と現象の因果関係の推定の仕方や、安全対策の検討の仕方などについて、具体的な製品を例示しながら実習形式で学んでもらうコラムです。

設計者自身で補足しながら事故の要因を網羅する

 今回は、自転車用幼児座席について、FTAを使って分析する。

 近年、自転車用幼児座席の足乗せ部が破損し、幼児の足が自転車の車輪に巻き込まれて負傷するという事故が多発している。事故を起こした製品はリコールされているが、事故原因が確定されないまま対症療法的な対策が施されただけだ。実際に発生した事故だけでなく、今後発生するかもしれない事故までをも未然に防ぐためには、事故に至る要因をFT図によって分析することが不可欠だ。

報道された事故原因

 まず、今回取り上げる事故について簡単に説明しよう。2011年4月15日、埼玉県で幼児を乗せて走っていた自転車の後席に取り付けた金属製の幼児座席の足乗せ部分が脱落し、幼児の足が車輪に巻き込まれて重傷を負った。この製品を販売したブリヂストンサイクルが事故を認識したのは、約4カ月後の同年8月4日だった。

 実はこの製品、2010年9月21日からリコールを開始したものである。回収率は2011年8月5日現在39.1%に留まっており、未回収の製品で事故が発生した形だ。

〔以下、日経ものづくり2011年12月号に掲載〕

松本浩二(まつもと・こうじ)
日本科学技術連盟 R-Map実践研究会 総括主査
PSコンサルタント〔製品評価技術基盤機構(NITE)技術顧問〕。医療機器メーカーで製品安全に携わると共に、1990年より日本科学技術連盟(日科技連)にて異業種企業と製品安全およびリスクアセスメント手法を研究し、国際規格をベースに独自のR-Map手法を共同開発した。2011年7月に経済産業省が発行した「リスクアセスメントハンドブック《実務編》」においては、同検討委員会委員長を務めた。