iPhone 4Sに見る、日本の部品メーカーの底力

 スマートフォンでは、日本の機器メーカーが世界市場で存在感を示せない一方、受動部品などを手掛ける日本の電子部品メーカーは、この分野でも強みを発揮している。ただし、最近は韓国や台湾の競合する部品メーカーに追い上げられているともいわれている。

 そこで、国内メーカーの部品がスマートフォンにどの程度使われているかを調べるため、2011年10月14日に発売された米Apple社の新型スマートフォン「iPhone 4S」の中身を分析した。そこで分かったのは、意外にも「日本の部品メーカーの底力」だった。受動部品やフラッシュ・メモリ、プリント基板といった、従来製品のiPhone 4から強かった部品に加え、他の部品でも国内メーカーの存在が目立つ。

『日経エレクトロニクス』2011年11月14日号より一部掲載

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第1部<市場の展望>
桁外れに大きい市場
リスク覚悟で攻めていく

今後の成長が約束されているスマートフォンは、部品メーカーにとって有望な市場だ。ただし、場合によっては巨大なダメージを負うリスクもある。シェア拡大の取り組みと、将来への備えを並行して進める必要がある。

部品メーカーにとっても大きなチャンス

 パソコンやテレビが世界的な販売不振に陥る中、それとは対照的に爆発的な売れ行きを見せているのがスマートフォンだ。米Apple社が2011年10月14日に発売した「iPhone 4S」は、発売後わずか3日で全世界での販売台数が400万台を突破したという。米Google社が中心になって開発しているソフトウエア・プラットフォーム「Android」を搭載したスマートフォンは、各端末メーカーの合計出荷台数ではiPhoneを上回る。電子部品メーカーにとって、パソコンやテレビよりもこうしたスマートフォンに採用されるかどうかが、業績も大きく左右する時代になっている。

 スマートフォン分野は、今後の成長も約束されている。全世界の携帯電話機の販売台数は今後も年々伸びていくが、内訳では従来の携帯電話機の割合が減少し、スマートフォンの割合が増えていくと予想されている。2015年には全販売台数の約半数に達する見込みだ。つまり、10億台を超える巨大な市場になる。

搭載する部品数も増える

 スマートフォンが部品メーカーにとって「おいしい市場」である理由は、販売台数の伸びが期待できる点だけではない。一般に従来の携帯電話機よりも高機能であるため、搭載する電子部品の種類や数が増えたり、より高性能な部品が使われたりする傾向があるのだ。

『日経エレクトロニクス』2011年11月14日号より一部掲載

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第2部<最新機種に見る搭載部品>
iPhone 4Sを分解
内部にアンテナ線の追加も

新旧二つのiPhoneを併せて分解することで、内部構成がどう変化したのかを分析した。内部の基本的なレイアウトはあまり変わっていないが、細かい工夫が加えられていた。通信用チップセットやカメラ・モジュールなど、一新された電子部品もある。

iPhone 4とiPhone 4Sの基板の比較

 米Apple社の新製品「iPhone 4S」は、外見上は従来製品の「iPhone 4」とほとんど変わっていない。音をオフにするミュート・スイッチと黒いスリットの位置が少し変わり、背面に表示されている認証ロゴが異なっている程度だ。

 両者の変化がそれほど大きくないということは、iPhone 4Sであえて変わった搭載部品には、現在のスマートフォン向け電子部品のトレンドやApple社の部品採用に対する考え方が色濃く反映されているに違いない。そう考え本誌では、iPhone 4SとiPhone 4を併せて分解し、搭載部品を解析した。

 調査会社の米IHS iSuppli社によると、フラッシュ・メモリ容量が16Gバイトの品種の部品コストは約188米ドルで、iPhone 4からほとんど変化していない(表1)。アプリケーション・プロセサやカメラ・モジュールは、性能の向上に伴ってコストが上昇している。その分、メモリや液晶パネル、各種センサといった部品のコストを削減することで、全体のコストを抑えているようだ。通信用チップセットや2次電池の変更は、コストにはあまり影響していない。

 分解して初めて分かった変化としては、「内部の中央にアンテナ線が追加されたこと」「水晶振動子/発振器の数が半減したこと」が挙げられる。

『日経エレクトロニクス』2011年11月14日号より一部掲載

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第3部<分野別の勢力図>
危機感強める国内部品業界
韓台勢からの逃げ切り図る

スマートフォン向け電子部品で底力を見せつけている国内部品メーカー。だが、その座は決して安泰ではない。特に、韓国や台湾メーカーの台頭は脅威だ。各社は強い危機感を持って、スマートフォン市場での生き残り策を打ち出し始めた。

スマートフォン向け主要部品の業界動向

 「スマートフォンの次は、スマートフォン。民生分野で次に育つアプリケーションを見いだそうと機器メーカーを回っているが、そんな話ばかりだ…」。ある国内電子部品メーカーの幹部は表情を曇らせる。

 スマートフォンは、民生分野で今後の成長を確実視できるほぼ唯一の市場だ。これまで各社の収益源だったパソコンや液晶テレビは、金額ベースでの市場の伸びが鈍化している。セット・メーカーと同様、部品メーカーにとっても「利益を出せる領域ではなくなってきた」(前出の部品メーカー幹部)。

 その意味で、目下のところ日本メーカーが高く評価されているスマートフォンは、絶対に落とせない市場である。ここで勝ち残り、利益を蓄えられない部品メーカーは、エネルギーやヘルスケアといった新分野への参入もおぼつかないだろう。

 スマートフォン市場で強さを発揮している国内部品メーカーの担当者から、楽観的な声は聞こえてこない。各社とも一様に、現在の優位を保つための方策を打ち出そうと必死である。背景には、韓国や台湾の部品メーカーが実力をつけ、日本のお家芸ともいえる電子部品でも日本勢のシェアを奪う存在に育ってきたことがある。そして、長引く円高が国内各社に追い打ちをかける。

『日経エレクトロニクス』2011年11月14日号より一部掲載

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