2008年12月8日、京都市左京区の共同住宅で1階からエレベータに乗った女性が目的階の4階で下りようとしたところ、扉が開いたまま突然降下。非常止め装置は作動したものの、かごは4階の着床位置から約2600mm下がった位置で停止した。女性は、乗り場の床とかごの出入り口の上部に腰部を挟まれ、骨盤を骨折する重症を負った。

 エレベータの扉が開いたまま、かごが動いてしまうという「戸開走行」は、2006年6月に東京都港区の共同住宅で発生した事故を想起させる。この事故は、ブレーキコイルの巻き線が短絡し、ブレーキライニングを走行時に開放する力が低下。十分にブレーキが開放されない状態で走行を続けたため、ブレーキの制止能力(かごの位置を維持する機能)を喪失したことが原因となった。

 エレベータのかごが停止階で止まった位置を維持する機構として、港区の事故のようなロープ式エレベータでは前述のブレーキが存在する。これに対して、今回の事故機は油圧式エレベータである。正確には、油圧ジャッキ(プランジャ)の動きを、ロープを介してかごに伝える間接油圧式と呼ばれるタイプだ(図)。

 油圧式エレベータでは、停止階でかごを制止する機構として油圧回路がその役割を担う。つまり、ロープ式エレベータでは、かごを支えるロープの動きを(間接的に)制限するのに対して、油圧式ではかごを支える油の流れを制限する形だ。

 事故後の調査では、かごは非常止め装置によって4階と3階の間で止まっていたものの、油圧ジャッキの圧力ゲージは0を示していた。つまり、油圧ジャッキの中の作動油が抜け切った状態だったのである。

〔以下,日経ものづくり2011年11月号に掲載〕

図●油圧式エレベータの構造
油圧ジャッキのプランジャ先端に滑車が取り付けてあり、かごに固定してあるメインロープが滑車で支持されている。これにより、プランジャが上下動した量の半分だけ、かごが上下動することになる。