第1部<市場変化が迫る技術革新>
供給過剰で価格崩壊
生き残りのカギは高効率化

競争の激化によって、太陽電池メーカーの倒産が相次ぐ事態となった。その危機感がトリガとなって、太陽電池の技術開発が加速する動きを見せている。危機を回避できた暁には、従来の常識に捉われない多様な太陽電池が姿を現す。

グリーン・ニューディール政策の旗手が逝く
(オバマ大統領の写真:Steve Jurvetson、ライセンス:Creative Commons Attribution 2.0 Generic)

 2011年8月31日、太陽電池メーカーの米Solyndra社が連邦倒産法第11章(Chapter 11)の適用を申請した。同社の太陽電池は、円筒形の一風変わった外見が特徴である。そのユニークな形状以上に“Solyndra”の名を世に知らしめたのは、2010年5月のオバマ大統領の視察だろう。大統領は円筒形の太陽電池を前に「グリーン・ニューディール」政策が切り開く未来について力強く講演した。

 それ以降、Solyndra社はグリーン・ニューディール政策の旗手として注目を集めることになる。このため、Solyndra社が破産に追い込まれたことは、米国で衝撃を持って受け止められた。一部では、「オバマ政権の失策を断じる政治的な動きにまで発展している」(米Pike Research社 Senior AnalystのPeter Asmus氏)ほどだ。

 Solyndra社の他にも、注目を集めた太陽電池メーカーが次々に力尽きている。リボンSiと呼ぶ短冊状の基板を利用する米Evergreen Solar社や、米Intel社から独立した米SpectraWatt社も、2011年8月に破産に追い込まれた。

 成長産業として注目された太陽電池だが、今や太陽電池メーカーの破産は、珍しいものではなくなってしまった。

破産は変化の前触れ

 太陽電池メーカーの相次ぐ破産は、太陽電池市場が急速に変化したことを如実に物語っている。以前は、作れば売れるという売り手市場で、太陽電池モジュールの価格が上昇することすらあった。それが現在は、生き残りを懸けた熾烈な低価格競争に突入したのである。この状況は太陽電池メーカーにとって厳しいものだが、同時に、太陽電池が新たな進化を遂げる前触れでもある。

 実際に太陽電池メーカーは、激変した環境に適応しようと必死にもがく中で、価格競争から抜け出すためには他社との性能の違い、つまり技術的な差異化の重要性を強く意識するようになっている。例えば、太陽電池だけでなくエネルギー・マネジメントを含めたシステムの完成度で勝負しようとする、変換効率を他社よりも早く高めて価格を維持しようとするといった動きが具体的に見えてきた。

『日経エレクトロニクス』2011年10月17日号より一部掲載

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第2部<現行技術の先行きを検証>
単結晶Si型の研究が活況
CIGS型は15%の大台に乗る

新興メーカーが製造装置メーカーの後押しを受けて、変換効率を急速に高め始めた。老舗メーカーは、高効率と低コスト化を両立すべく、一歩先を行く技術の開発に余念がない。研究開発の主流は多結晶Si型から単結晶Si型へと移り、CI(G)S型は変換効率を高めてきた。

新興メーカーと老舗メーカーの差が縮まる

 太陽電池モジュールのあまりに急速な価格下落を受けて、太陽電池メーカー各社は競争回避に向け、変換効率の向上にこれまで以上に注力し始めた。太陽電池の最大の市場であるドイツで2011年9月に開催された展示会と学会「EU PVSEC(26th European Photovoltaic Solar Energy Conference and Exhibition)」でも、この傾向がはっきりと見えた。

 EU PVSECは、太陽電池関連では世界最大規模のイベントである。太陽電池ビジネスと研究開発の最新動向を探るために、約4万人の太陽電池関係者が集う。ここ数年のEU PVSECでは、製造コストの安さをアピールする発表や展示が注目を集めていた。その代表格が、低コスト化を牽引してきた米First Solar社である。同社に製造コストでいかに追い付くかが、業界関係者にとって最大の関心事だった。

 だが、2011年はこうした構図で表せなくなってきた。そのことは、First Solar社の動きに垣間見える。同社は、EU PVSEC直前の2011年7月下旬に、小面積セルの変換効率を、実に10年ぶりに16.7%から17.3%に更新して関係者を驚かせた。2014年末には製品のモジュール変換効率を現在の11.7%から最大で14.5%まで、一気に3ポイント程度も高める計画という。

 First Solar社でさえ高効率化に強い意欲を見せたことは、大きな時代の変化を感じさせた。低コスト化で先行する同社も、昨今の価格下落とは無縁ではないようだ。

『日経エレクトロニクス』2011年10月17日号より一部掲載

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第3部<超高効率・超低コストを目指して>
次世代エレクトロニクス技術で
半導体から太陽電池を解放

今の太陽電池技術では、効率向上やさらなる低コスト化の限界が見えている。これを打ち破るカギは、従来とは全く異なる技術の利用にある。最近、強相関電子系材料やプラズモニクスといった技術がこれに名乗りを上げ始めた。

第3世代を追い抜く勢いで、高効率で安い「第4世代」の太陽電池技術に脚光

 「これからの太陽電池は、従来の半導体とは根本的に異なる技術を駆使し、バンドギャップ1.5eVの呪縛から自由になる必要がある」──。理化学研究所 交差相関物性科学研究グループ 交差相関超構造研究チーム チームリーダーの川崎雅司氏は、現在の太陽電池技術の閉塞状況を全く新しい技術で打ち破る必要性を訴える。現状の技術では限界が近い変換効率を、一気に何倍にも引き上げる可能性が高いからだ。

太陽光の一部しか使っていない

 現在、製品化されている多くの太陽電池モジュールは結晶Si型などの「第1世代」、そして薄膜Si型などの「第2世代」とも呼ばれる技術に基づいて作製されており、変換効率は10~20%である。各メーカーは1ポイントでも高い変換効率の実現を目指して開発を続けている。しかし、従来技術の改善に頼る「第2.5世代」の技術群では、この数年のうちに劇的に変換効率が向上するメドは立っていない。

 それには理由がある。半導体技術には、太陽光太陽光を利用する上での限界があるためだ。具体的には、太陽電池の変換効率の理論的上限が、半導体材料のバンドギャップでほぼ決まってしまうことである。

 この課題を解決する策として、「第3世代」と呼ばれる量子ドット/量子井戸技術や、種類が大きく異なる材料を積層するヘテロ多接合技術が研究されている。ところが、これには早くも閉塞状況が生まれている。

ゼロから技術を総ざらい

 変換効率を一気に上げるのは一筋縄ではいかないが、太陽電池の技術開発競争は待ったなしの状況のため、何としても技術開発を先に進めねばならない。打開策として、太陽電池のあらゆる可能性を、原点に戻って再検討する動きが増えてきた。考え得る限りのさまざまな材料が試されており、まさに百花繚乱という状況だ。その中には、研究者自身が驚くような結果が出始めた例も幾つかある。

 さらに、従来の半導体技術とは全く異なるアプローチで光電変換を実現したり、変換効率の大幅な向上を目指したりする、いわば「第4世代」と呼べる技術も幾つか出てきた。

『日経エレクトロニクス』2011年10月17日号より一部掲載

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