2011年9月2~7日にドイツのベルリンで開催された「IFA 2011」は、欧州の景気減速の不安を吹き飛ばす活気にあふれた。展示スペースの広さや出展社数で過去最高を記録。家電メーカー大手が、4K×2Kの液晶テレビやスマートテレビの新市場を模索し、携帯情報端末でも新機軸が登場した。2012年には、ロンドン五輪やサッカーの欧州選手権などの開催が控える。デジタル家電の開発競争はこれまで以上に白熱しそうだ。

 今回の「IFA 2011」で参加者の話題をさらったのは、55型と大画面の、裸眼式の3次元(3D)液晶テレビだった。出展したのは東芝。専用メガネを使わずに高品質な3D映像を視聴できる同テレビは大きな関心を呼び、デモを一目見ようと会期初日から連日長い列ができた。IFAは家族連れの来場者が多く、一般消費者に自社ブランドを印象付ける場という側面を持つ。その点で今回の3Dテレビは、裸眼式3D技術への関心を喚起するのに十分だった。

 この3Dテレビが残したインパクトは、もう一つある。それは、現行の大画面テレビで主流のフルHD(1920×1080画素)映像の4倍に当たる、4K×2K(3840×2160画素)映像の表示技術の方向性を見せたことだ。4K×2K映像の放送がなくても高精細な映像の表示技術を家庭向けに投入する道筋を、製品という形で具現化した。

 東芝の3Dテレビでは、裸眼式の3D映像の表示を実現するために4K×2Kの液晶パネルを載せた。3D映像の場合は右目用と左目用に別々の映像を見せる必要があるため、精細度が1280×720画素と低くなるものの、通常の映像表示では4K×2Kの画素数を徹底的に生かすことを選んだ。従来の液晶テレビに搭載してきたアップコンバート処理の技術を用いて、フルHD映像を4K×2K映像に変換する仕組みを導入したのだ。

4K映像の競争が水面下で激化

 今回の東芝と同様の構想は以前からあった。だが、これまでは液晶パネルや画像処理LSIのコストの制約からテレビ・メーカーは製品化に二の足を踏んでいた。

 ここにきて4K×2Kテレビが従来以上に現実味を帯びている背景には、コスト面での課題が解決し始めたことに加え、事業の業績が好転しない大手テレビ・メーカーの苦しい台所事情がある。この2年ほど業界の期待を集めてきた3D映像の表示機能は、上位機種での搭載が当たり前になり、競合他社との差異化が難しくなった。今のところ、テレビの激しい価格下落を抑える決定打にはなっていない。これは、テレビ・メーカーの共通認識だろう。

『日経エレクトロニクス』2011年10月3日号より一部掲載

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