車載ソフト開発で、シミュレーション技術の適用範囲が広がってきた。従来は、主にパワートレーンの分野で使われるHILS(Hardware in the Loop Simulation)が、典型的な活用法だったが、よりソフト開発の上流、あるいは下流で使われるようになってきた。手書きコードによる開発が主流だったHMI(Human Machine Interface)の開発や、先進安全システムの開発などでもこうした手法が活用されるようになっている。

 これまで、車載ソフト開発におけるシミュレーション技術の活用といえば、代表的なものはHILSだった。これは、開発中のECU(電子制御ユニット)を試作車両で評価する前に、ECUを実車両や実エンジンにつないで制御しているかのような環境を再現できるシミュレータ。ドライバーやテストコースが必要ないため、効率的にECUを評価できることから、すでに多くの自動車メーカーで使われている。
 HILSは車載ソフト開発におけるVサイクルの、かなり下流の「システム統合テスト」におけるシミュレーション技術の活用。これに対して最近進んでいるのが、ECUができる前にソフトを評価する段階でのシミュレーション技術の活用である。
 Vサイクルのソフトウエアコンポーネントの設計段階で普及しているのが「MILS(Model in the Loop Simulation)」あるいは「SILS(Software in theLoop Simulation)」と呼ばれる手法である。ともに開発しているソフトをECUに組み込む「オブジェクトコード」〔CPUが実行するのに適した形式(機械語)に変換したコード〕にする前の段階で、シミュレーション技術により検証するプロセスである。
 このうちMILSは米Mathworks社の「MATLAB/Simulink」などで設計したモデル段階のソフトを検証するプロセス、SILSが、モデルから自動生成したCコード段階のソフトを検証するプロセスを指す。
 こうしたMILS、SILSでの検証で重要なのが、開発中のソフトウエアが要求仕様を満たしているかどうか、異常な動作をしないかどうか、漏れなく検証するための手法である。特に最近では、自動車の電子制御系の機能安全規格「ISO 26262」が今秋にも発行されるといわれていることから、ソフトウエアの安全性をいかに確保するかが課題になっている。dSPACE JapanとBTC Japanは共同で、dSPACEのコード自動生成ソフト「TargetLink」とBTCの検証ソフト「EmbeddedValidator/EmbeddedTester」を組み合わせて使うことで、こうしたチェックを効率化する手法をユーザーに薦めている。

以下、『日経Automotive Technology』2011年11月号に掲載