日経テクノロジーオンライン
雑誌 2011年11月号 Cover Story

トヨタが電力事業者になる日

2011/09/29 12:37
 

20XX年、トヨタ自動車が電力事業を手掛ける新会社を立ち上げた。会社名は「Toyota Electric Power Company(TEPCO)」。発電でも送電でも配電でもなく、電力の需要と供給を調整する役割を担う会社だ――。架空の話だが、根拠はある。いま、日本の自動車メーカーはこぞって地域の電力を最適化する実験に挑んでいる。車両に積む電池が再生可能エネルギの普及に役立つのならば、逆に電力事業がプラグインハイブリッド車や電気自動車の普及を後押ししてくれる可能性があるからだ。(清水直茂)

Part1:自動車業界の攻防

車載電池で新たな価値、電力情報の取り扱いがカギ

多くの業界がプラグインハイブリッド車や電気自動車に期待し始めた。注目するのは車両に積んでいる電池。東京電力福島第1原子力発電所の事故をきっかけに、爆発的に増えそうな太陽光発電の出力を安定化するために使いたい。自動車メーカー各社もその期待に応じる考えだ。ただし、車両の付加価値を高め、自ら主導権を握れる形であることが前提になる。

 地域内の電力需給の情報を管理し、さらには電力料金まで決める──。
 ほとんど電力事業者と言える役割にトヨタ自動車が挑み始めた。2011年6月から愛知県豊田市でプラグインハイブリッド車(PHEV)付きの16棟の分譲住宅を販売(図1)。同年9月には入居済みの住宅すべての電力関連情報を管理する「EDMS(Energy Data ManagementSystem)」を実験的に運用する。
 EDMSには地域内の太陽光発電の余剰電力量と、中部電力から供給される電力量との比率に応じて電力料金を変える仕組みを取り入れる。法律上、電力会社以外は一般の住宅に対して電力を売買できないため、トヨタは電子マネーに換えられるポイントを発行して対応する。
 自動車メーカーの範疇を明らかに超える試みだが、電力情報の管理に目を付ける自動車メーカーはトヨタだけではない。ホンダは、住宅内の電力消費量の情報を基に各種機器を制御するHEMS(Home Energy Management System)を自ら開発する方針だ。2011年5月、同社は埼玉県さいたま市にHEMS対応の住宅を3軒建設すると発表した。住宅にあるPHEVや電気自動車(EV)、太陽電池、定置用蓄電池、ガスエンジンを、ホンダが開発した「Smarte Mix Manager」と呼ぶ機器で制御する。2015年ごろの発売を目指す。

以下、『日経Automotive Technology』2011年11月号に掲載
図1 トヨタが電力情報を管理する
「豊田市低炭素社会システム実証プロジェクト」でトヨタは、PHEVを導入した複数の住宅の電力を管理する。(a)は愛知県豊田市に建設した住宅。(b)はトヨタが開発した地域内の電力情報を管理するシステム。

Part2:自動車メーカー4社の挑戦

電力情報に期待するトヨタとホンダ、日産と三菱自の狙いはEVの価値向上

国内自動車メーカー4社がスマートシティやスマートハウスの実験に加わる。こうしたエネルギ需給の最適化に関連する事業領域は広い。このため各社が手掛ける範囲は、製品領域によって異なる。トヨタは壮大なプランを描き、ホンダは自前主義で挑む。日産や三菱自動車は他社との協業を重視して参入領域を絞り込む。

 国内自動車メーカーで、プラグインハイブリッド車(PHEV)や電気自動車(EV)を使って地域や住宅のエネルギ需給を最適化する実証実験に取り組むのがトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車、三菱自動車の4社である。
 各社の共通点はPHEV/EVを既に販売しているか、2012年のうちに発売する計画があること。PHEV/EVの開発と販売に影響を与えそうな、こうした実証実験への取り組みには真剣だ。
 ただ、自社で手掛ける領域は企業ごとに異なる(図2)。これはグループ企業を含めて手掛ける製品群の違いによるところが大きい。電力情報の管理システムを自ら開発するトヨタとホンダの場合、トヨタにはグループ企業に住宅メーカーのトヨタホームが、ホンダには太陽電池を開発するホンダソルテックがある。エネルギ需給を最適化する試みの中で、住宅と太陽電池は重要な製品の一つ。電力情報の管理システムがあれば、PHEV/EVに加えて住宅や太陽電池へのプラスの効果も見込める。現時点で手掛ける範囲は、トヨタが地域単位となるのに対してホンダは住宅単体になる。
 一方でEVを既に販売する日産と三菱自動車は、地域や住宅の電力情報の管理システムを自ら手掛けず、他社に任せて協業することを重視する。2社ともに住宅向けの製品などを開発していないことがその背景にある。代わりに2社が力を注ぐのが、EVの放電機能の開発と車載電池の2次利用ビジネスである。EVの付加価値を高めることや、電池のコストを下げることにつながる可能性があるからだ。
 以降では4社の取り組みをみていこう。

以下、『日経Automotive Technology』2011年11月号に掲載
図2 自動車メーカーごとに手掛ける領域は大きく異なる
国内ではトヨタ、ホンダ、日産、三菱自動車が実証実験に力を入れている。

Part 3:蓄電池の効果

電力の“貸し倉庫”で対価を得る、技術とビジネスの両面で研究が進む

再生可能エネルギの変動は大きく、地域内の電力需給の釣り合いを崩す恐れがある。そこで短い周期と長い周期の変動を対象に蓄電池を使って出力を吸収する。EV1台分で100kWの太陽電池の短い周期の変動を吸収できるという研究もある。ただ、実用化には車両の所有者が対価を得るビジネスの仕組みが欠かせない。その仕組みとしてアンシラリーサービスに注目が集まっている。

 プラグインハイブリッド車(PHEV)や電気自動車(EV)の車載電池をエネルギ需給の最適化に使って、効果はどれだけあるのか。実際に車載電池を使う研究はこれからだが、定置用の蓄電池を使う形で研究成果が出始めている。
 研究は技術とビジネスの両面で進んでおり、技術面では再生可能エネルギの出力変動を吸収する対象となる時間の周期の違いで二つに分かれる。(1)数~十数分単位と(2)数時間単位である。
 (1)の数~十数分と短い時間を対象にするのは、例えば容量の大きな太陽電池を配電網につなげる場合に、晴れたり曇ったりして激しく出力が変わるのを、蓄電池を充放電させて滑らかにするためである。数~十数分というのは、電力会社が電力需給の釣り合いを調整する時間幅の短い場合に相当する。(2)の数時間というのはいわゆる平準化のことで、例えば地域内の太陽電池が日中に大きく発電する電力を、発電量の小さな夜にずらして使う。
 (1)と(2)を蓄電池で実現する手法は、技術的にはほぼ同じである。太陽電池の出力が大きなときにいったん蓄電し、出力が小さなときに放電する。ただ、蓄電池に必要な性能が違う。短い時間で電力を充放電するには電池に大きな出力が求められる。一方、平準化には数時間単位の電力を貯める能力が必要で、電力容量の大きな電池がいる。
 ビジネス面では、アンシラリーサービスが考えられている。(1)と(2)のように電池を充放電させることは、電池の保有者が電力事業者から電力を預かっているのと同じ。この預かるサービスがアンシラリーサービスである。電力事業者は保管料を支払う必要がある。いわば、電力の“貸し倉庫”業である。

以下、『日経Automotive Technology』2011年11月号に掲載

マイページ

マイページのご利用には日経テクノロジーオンラインの会員登録が必要です。

マイページでは記事のクリッピング(ブックマーク)、登録したキーワードを含む新着記事の表示(Myキーワード)、登録した連載の新着記事表示(連載ウォッチ)が利用できます。

協力メディア&
関連サイト

  • 日経エレクトロニクス
  • 日経ものづくり
  • 日経Automotive
  • 日経デジタルヘルス
  • メガソーラービジネス
  • 明日をつむぐテクノロジー
  • 新・公民連携最前線
  • 技術者塾

Follow Us

  • Facebook
  • Twitter
  • RSS

お薦めトピック

日経テクノロジーオンラインSpecial

記事ランキング