このコラムは、信頼性解析技法の1つであるFTA(Fault Tree Analysis、故障の木解析)による危害シナリオの推定と対策の検討について、具体的な製品を例示しながら実習形式で学んでもらうものです。

危害シナリオを網羅する

 東京電力福島第一原子力発電所の事故は、「絶対安全」という言葉を軽々しく使っていけないことと、時代を超えて安全であり続けることはいかに実現困難なものかを知らしめた出来事だった。逆に我々も、絶対安全を安易に信じるのではなく、どの程度の安全レベルであるか、どの程度のリスクが残っているのかを正しく把握し、そのことを正しく知らされることの大切さを学んだ。

 そもそも、法律や技術基準を守っていればよく、その限りにおいて、発生した事故や不具合の責任は製造事業者側にはないという考え方、国が安全設計仕様を規定するという方法は、世界的規模で、今まさに崩壊してきている。

 本コラムは、リスクを安全性の評価尺度とした安全設計、さらには不具合の未然防止に有用なFTA(Fault Tree Analysis、故障の木解析)の具体的な使い方を身に付けてもらうことを目的にしている。FTAを使えば、不具合事象とさまざまな要因の因果関係を整理できる。重大事故に至るプロセスを一度に見渡せ、どのような対策を採るべきかの検討に役立つ。初回である今回は、FTAを有効活用するための基本的な知識について解説する。

〔以下、日経ものづくり2011年10月号に掲載〕

松本浩二(まつもと・こうじ)
日本科学技術連盟 R-Map実践研究会 総括主査
PSコンサルタント〔製品評価技術基盤機構(NITE)技術顧問〕。医療機器メーカーで製品安全に携わると共に、1990年より日本科学技術連盟(日科技連)にて異業種企業と製品安全およびリスクアセスメント手法を研究し、国際規格をベースに独自のR-Map手法を共同開発した。2011年7月に経済産業省が発行した「リスクアセスメントハンドブック《実務編》」においては、同検討委員会委員長を務めた。