2007年夏以降、急激に進んだ円高によって日本企業による工場の海外移転が一層加速している。果たしてこれらの海外展開は、計画通りうまく軌道に乗っているのだろうか。
日本の自動車産業の米国進出から30年が経過し、新興国を含めて多くの国や地域で海外生産が行われているが、実情をよく知る研究者の間では、20~30年を経た海外日系企業には日本流生産方式が根付いているが、10年以下ではいろいろな問題を抱えている企業が多いことがよく知られている。なぜなのだろうか。その理由は、日本の生産方式をそのまま海外に移植することが困難だからである。
本稿では、新興国に最強工場をつくるための見える化手法である「7M+R&D(なな エム プラス アールアンド ディー)アプローチ」を紹介する。同アプローチは、企業や事業部門、工場などに対して、32の要素を0~4点の5段階で評価し、その合計点で経営力を評価するものだ(表)。評価の低い基本要素を重点的に強化することによって、ものづくり力を高めることができる。
筆者は、1965年にいすゞ自動車に入社以降、ほぼ一貫して生産技術畑を歩み、退職後は2003年から旭テック社長兼CEO(最高経営責任者)などを務めた。その間、日本だけではなく、欧州や米国、中国、韓国、ASEAN加盟国、南アフリカ、トルコにおいて経営者やコンサルタントとして工場の運営に携わった。
その経験を通じてはっきりと認識させられたことの1つは、日本の経営環境は特殊だということだ。この特殊性をキーワードに、まず日本のものづくりの特徴を明らかにする。海外で工場を運営する場合、彼我の違いを認識することはとても重要だからだ。そこで、米General Motors(GM)社の調査団のエピソードを紹介する。これは約30年前の話だが、今も変わらない日本の特殊性を余すことなく示している。
〔以下、日経ものづくり2011年10月号に掲載〕
東京大学 特任研究員