ステップアップは、技術者や管理者が基礎力を養ったり新たな視点を導入したりするのに役立つコラムです。2012年3月号までは「渋滞学・西成教授の数学で闘え」をお届けします。同コラムでは、技術の現場で発生する課題を、技術者が自ら数学を用いて解決する方法を学べます。

 皆さんは前回(2011年9月号)の授業で、代数の本質と回転の基礎をバッチリ押さえました。代数の本質は、「数の代わりになる記号と操作を導入して、その結果どうなるかのルールを決める」こと。「回転」という操作をR、座標上にある点の位置を(x,y)とすると、回転後の位置(X,Y)は、R(x,y)と表せるのでした。

 三角関数を使ってこのRを求めると、4つの記号が縦と横に2つずつ並んだ「回転行列」が得られました。さぁ皆さん、ノートに書いてみましょう。覚えているかな?

(生徒たちが回転行列をスラスラと書き始める)

 左下から時計回りにsc-sc(エス・シー・マイナス・エス・シー)と覚えるんだから…上の行がcosθと-sinθ、下の行がsinθとcosθの行列になります。「ものづくりの現場でめちゃめちゃ使えるんで丸暗記を」とお話ししました。sc-sc、sc-sc…。もう忘れませんね(笑)。

 今回は、待ちに待った応用編。平面の世界から3次元の世界へ飛び出します。これを理解すれば、世の中のあらゆる回転を精密に表現できるようになっちゃいます。

 すぐにその説明に入りたいところですが、皆さんにご紹介したい、いや、感動をぜひとも共有したい「神様の公式」について話さないわけにはいきませんっ! 電気回路の波形計算にも応用されていて、非常に便利なものです。

〔以下、日経ものづくり2011年10月号に掲載〕

西成活裕(にしなり・かつひろ)
東京大学 先端科学技術研究センター 教授
東京大学先端科学技術研究センター教授。1967年東京都生まれ。1995年に東京大学工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程を修了後、山形大学工学部機械システム工学科、龍谷大学理工学部数理情報学科、独University of Cologneの理論物理学研究所を経て、2005年に東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻に移り、2009年から現職。著書に『渋滞学』『無駄学』(共に新潮選書)など。