雑誌 2011年10月号 特集

生産技術の底力

トヨタ、コマツ、… 強い現場は頭を使う

2011/09/27 17:26
 

 生産技術、それは日本のものづくりの強さの源だ。生産規模が小さくても利益が出せるライン、成熟したはずの基本技術でさらに効率を高めた設備、海外EMS企業では不可能な品質を保証する日本流EMS手法、品質向上と変種変量生産に対応する新工法…。生産技術に強いメーカーからは、革新技術が今なお、続々と誕生している。
 一方で、安易な海外生産シフトや外注などに頼ったメーカーほど、国内外を含めた競合他社に差をつけられずに悩んでいるのではないだろうか。
 どんなに困難な状況にあっても、決してあきらめない。みんなで懸命に考え抜いて、最後には革新的な技術を生み出して解決する──。今こそ、これまで以上に知恵を絞って未来を切り開く生産技術者が求められている。そして、日本メーカーにはそれができる生産技術者がたくさんいる。(木崎健太郎、近岡 裕)

ベテラン生産技術者、かく考えり

「少量変種対応に、1個流し生産、シンプル・スリムな機械や設備の開発、工程削減など、生産技術者には知恵を絞らなければならないことがたくさんある」
──トヨタ自動車取締役副社長の新美篤志氏

「10倍、あるいは10分の1といった大改革に挑戦するのがわれわれの役割だ」
──東芝生産技術センター所長の隅田敏氏

「日本の潜在的な生産技術力が弱っているとは思わない。だが、もう一度、基礎から鍛え直して自前で差を広げる必要がある」
──コマツ執行役員生産本部生産技術開発センタ所長の岩崎章夫氏

〔以下、日経ものづくり2011年10月号に掲載〕

トヨタ自動車●少量でも稼げるライン

現場のニーズと寄せ止めで革新技術を生む

 トヨタ自動車ほど、グローバル化の厳しい洗礼を受けた日本企業はないだろう。世界中に工場を新設しながら年間50万台規模のペースで増産し続けても受注に生産が追いつかなかった空前の好況が、リーマンショックを機に一変。潮が引くかのように需要が減り、2008年に855万台あったトヨタ自動車の生産台数は、2010年には681万台に落ち込んだ。170万台を超えるクルマの生産が消えたのだ。

 グローバルに展開すれば、世界のいろいろな国や地域の顧客を相手にするのだから、景気変動のリスクに強くなる──。かつて、まことしやかにこう言われた。だが、必ずしもそうではないことが、この一件で明らかになった。リーマンショックから日本企業が学ぶべき教訓は、本格的なグローバル化は需要の急増と急落をもたらす危険性がある、ということだ。

 実は、トヨタ自動車は従来から規模の大きすぎないシンプルな生産ラインの構築に心掛けてきた。シンプルな機械や設備であれば海外に輸送しやすいし、組立性も優れる。海外の経験が浅い作業員でも簡単に使えるし、誤操作などのミスも少なくなる。急激な増産に応えるには適した方法と思われた。

 それでも、旺盛な需要に応えるべく「個々のラインの生産規模が大きかった」(トヨタ自動車常務役員の川田康夫氏)。そのため、リーマンショックが襲って需要が激減すると、生産規模が過剰になった。結果、トヨタ自動車には余剰設備による固定費の負担が重くのしかかった。
〔以下、日経ものづくり2011年10月号に掲載〕

コマツ●高効率な溶接と切削

基本に立ち返って自前主義で設備を造る

 図1は、コマツが誇る溶接工程だ。同社が新たに生み出した溶接技術「大電流溶接」を導入した。複数のロボットが巧みに動き、分厚い鋼板同士をアーク溶接でつなぎ合わせて重厚な建機の部品に造り上げていく。

 最大の特徴は、溶接効率〔1時間当たりの溶着量(kg/h)〕の高さだ。競合他社に対して「頭1つ抜けた状態にある」と、コマツ執行役員生産本部生産技術開発センタ所長の岩崎章夫氏は胸を張る。ここしばらく競合他社との間で生産技術力が拮抗状態にあったという中、この差は大きい。
〔以下、日経ものづくり2011年10月号に掲載〕

図1●効率に優れる溶接工程
200tの大型油圧ショベル「PC2000-8」の本体とアームをつなぐ「ブーム」を溶接する様子。最大出力電流を高めた溶接技術「大電流溶接」を導入し、効率を従来の1.7倍に高めた。

東芝●生産技術の横展開

データから本質を理解し、考える切り口を提供

 東芝は2010年末に、世界で初めて裸眼で見られる立体テレビ「グラスレス3D REGZA」を発売した。その背景には、3次元ディスプレイを高精度で製作できる、新しい生産技術があった(図2)。

 立体テレビの方式には専用のメガネを使う方式もあるが、東芝が力を入れているのはメガネを使わない裸眼式の立体テレビだ。ディスプレイの表面にカマボコ断面で非常に細長いレンズ(レンチキュラレンズ)を何列も並べたユニット(レンズユニット)を張り付ける。このレンズユニットが左目用の画像と右目用の画像を振り分けることで、見る人に立体画像を認識させる〔II(Integral Imaging)方式と呼ぶ〕。
〔以下、日経ものづくり2011年10月号に掲載〕

図2●立体テレビ用ディスプレイの張り合わせ装置
液晶ディスプレイの表面に、レンチキュラレンズのユニットを張り付ける工程が必要。液晶の画素とレンチキュラレンズがずれると、立体画像の品質が低下してしまう。

OKI●不良ゼロのはんだ付け

顧客の困り事を考えて難関にあえて挑戦

 OKIグループはEMS(Electronics Manufacturing Service)事業として、電子機器の設計・生産サービス「Advanced M&EMS」を運営している。製品自体よりも、製品の造り方を提供するという点で、「生産現場そのものが商品」(OKI EMS事業部事業部長の清水光一郎氏)という位置付けになる(図3)。いわば、自社製品を造るために培った生産技術を、他社に提供している事例だ。

 同サービスでは、「エレベータ用の制御機器といった、社会インフラに使う機器や、一部の医療関連の機器など、何十年も使うもので、高い信頼性が求められるもの」(同氏)の生産を主に請け負う。業態は海外のEMSやODM(Original Design Manufacturing)と同様、顧客企業の製品企画に基づいて、電子機器の生産(設計から手掛けることもある)を担当する。しかし、特に高信頼性の必要なものに特化していることから、生産技術も独自に発展させている。
〔以下、日経ものづくり2011年10月号に掲載〕

図3●OKIグループのEMSサービス「Advanced M&EMS」
生産技術、あるいは生産現場そのものが商品になるという位置付け。

ホンダエンジニアリング●海外勢にまねできないボディ金型

デザインの数値化を図り、妥協なき形状を追う

 「夢がものづくりの原動力になる」とホンダは言う。ホンダ車の生産技術を担うホンダエンジニアリングも同じだ。「世界一早く、かっこいいクルマを造る」(同社執行役員車体領域執行責任者の田岡秀樹氏)。この夢が、4輪車のボディ用金型(以下、ボディ金型)の設計・生産を手掛けるホンダエンジニアリングの生産技術者に革新的な技術を実現させる。

 ホンダエンジニアリングにとって夢は見るものではなく、実現すべき具体的な目標であり、必達目標となる場合も珍しくない。従って、同社の生産技術者は夢を形にするために知恵を絞らなければならない。現に、「世界一早く」という夢の実現のために、同社は、新型車(派生車は含まず)のデザインが決まってから量産を開始するまでのリードタイムを19.5カ月にまで縮めた。これは、2010年に開発した「2011年度版シビック」で実現した「世界最速」(田岡氏)記録である。
〔以下、日経ものづくり2011年10月号に掲載〕

東洋ゴム工業●高品質を生む変種変量ライン

1番手ではできない小から大を造る逆転の発想

 「ダイナミックバランスを従来の1/3に抑え、世界のトップレベルに高めた」。東洋ゴム工業エンジニアリングセンターセンター長の多田羅哲夫氏は、新しい製造方法(以下、新工法)「A.T.O.M.工法」で造ったタイヤの品質に胸を張る。ダイナミックバランスはタイヤの均一性を示す指標の1つで、小さいほど真円に近くなる。走行中のハンドルの振れが小さくなるメリットをドライバーに提供する。

 品質向上の理由は、新旧の工法の成形工程を比較すればよく分かる(図4)。従来工法では、幅が太く大きなシート状の部品をドラムにぐるりと巻き付け、両端の微小な部分を重ねて貼り合わせて輪に(生タイヤ)にしていた。この貼り合わせ部(ジョイント部)が、より真円に近づける上でネックとなる。

 これに対して新工法では、押し出し機から出てきた幅15mm程度と細い材料を直接ドラムに巻き付けていく。生タイヤの幅になるまでドラムの軸方向に移動しながら、材料を連続して巻き続けるのだ。その外観から「リボン巻き」と呼ばれる。従来工法とは異なりジョイント部がない(ジョイントレスの)ため、より真円に近づける。
〔以下、日経ものづくり2011年10月号に掲載〕

図4●タイヤの従来工法と新工法の比較
従来の工法(左)は幅が太く大きなシート状の部品をドラムに1周巻く。これに対し、新工法「A.T.O.M.工法」(右)は、幅が細い材料を何周もドラムに巻き付けていく。押し出し機から直接ドラムに材料を提供し、必要な形状に造り込む。これにより、ジョイントレスの生タイヤに成形できる。

セイコーエプソン●海外拠点の強化

生産は外に出しても工程設計は国内回帰

 プリンタなどを手掛けるセイコーエプソン情報画像事業本部は、生産拠点が海外に移った当初、量産設計(工程設計や金型の設計試作)といった一連の作業も海外拠点に移管した。海外拠点の技術者に方法を教えて、国内技術者は海外拠点に出張して指導や監督に当たる役割に回った。しかし、ほどなくベテランの生産技術者たちは、「どうも日本の技術者が『できない人』になってきているのではないか」(セイコーエプソン情報画像事業本部機器生産技術開発部課長の武井昭文氏)と気が付いたという。

 セイコーエプソンは、インクジェット・プリンタについては一部の大判の製品を除き、ほとんどを中国、フィリピン、インドネシアといった海外で生産している。設計開発は国内で手掛けているが、国内にはマザーラインはなく、いきなり海外拠点でラインを立ち上げる。生産を移管するのと同じく、工程設計などの生産技術の仕事を海外拠点に任せたのは、「その方が仕事は楽になる」(同氏)し、自然な流れだった。
〔以下、日経ものづくり2011年10月号に掲載〕

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