消費者心理の変化が蓄電生活の扉を開く

 2011年6月、LED電球が白熱電球の販売数量を初めて抜いた。LED電球のまさかの逆転劇に影響を与えたのは、消費者心理の変化である。東日本大震災後に「生活を見直して暮らし方を変えたい」という人は38%に達した。この新たな生活を探索する層は、「緊急事態を想定した生活」「前向きに楽しんで節電したい」という気持ちを持っている。そうした消費者が実際に行動を起こしたことで、LED電球の比率が増加したといえる。

 消費者心理の変化が影響を与えているのはLED電球だけではない。家電量販店では、省エネ型のエアコンや扇風機など、省エネ関連製品に人だかりができている。「商談のほとんどが省エネ関連」(ビックカメラ)という状況だ。

 この消費者心理の変化をいち早くキャッチした機器メーカーは、新しいジャンルの製品として蓄電池を搭載した家電の販売を始めた。震災後、急遽、開発したものだ。蓄電池を利用して、停電やピーク電力のカットなどに対応する。今後、蓄電池搭載製品の種類が増えるとともに、蓄電池の新たな活用方法を競うことになるだろう。家庭内で蓄電池をさまざまな用途で活用する「蓄電生活」の扉が開く。

『日経エレクトロニクス』2011年8月8日号より一部掲載

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<パラダイム・シフト>
「蓄電家電」が生む新たな価値
震災で変わる機器開発

震災を機に変化した消費者が、蓄電池を搭載した家電を支持する動きを見せている。この「蓄電家電」が普及すれば、おのずと家庭に大量の蓄電池が設置されることになる。蓄電池の活用次第では、混沌とする電力事情を好転させる可能性も秘めている。

パラダイム・シフトが起こった

 「電力事情は、すぐに好転するわけではない。数年は続くだろう。その間に根差したものは、定着することになる」(東芝 デジタルプロダクツ&サービス社 デジタルプロダクツ&サービス第一事業部長の長嶋忠浩氏)。

 東日本大震災を機に変化した、消費者の気持ち。それは一過性のものではなく、今後も継続する可能性が高い。震災後、綱渡りが続く国内の電力事情は短期間での好転が見込めず、「これまで疑問に感じていたものを見直す機運が消費者の中で芽生えてきた」(電通 電通総研 ナレッジ・センター 情報サービス部長の望月裕氏)からだ。

 湯水のごとく電力を消費していたこれまでの生活を無理のない範囲で見直そうと決断した消費者は、新たな基準で家電を選別し始めた。ジャパネットたかた 代表取締役の?田明氏は「もはやエコな製品でなければ消費者がついてこなくなった」と分析する。震災をきっかけに生じたパラダイム・シフトが、家電の将来像にも影響を及ぼし始めたのだ。

 変化を求める消費者に向けて、機器メーカーには新たな価値を提供できる製品や技術の開発が求められている。その一つの方向性として震災後に現れたのが、蓄電池を搭載した家電「蓄電家電」である。

 これまでもノート・パソコンなどで携帯性のために蓄電池を活用してきたが、蓄電家電は停電時の電力確保を主目的としている。蓄電池を家庭内で活用するという新たな概念を、消費者に広める役割も果たす。蓄電池の価値が認められて蓄電家電が広く普及すれば、ピークシフトを進めて電力事情を好転させることも夢ではない。1台当たりの電池容量は少ないが、ちりも積もれば大きな力となる。

『日経エレクトロニクス』2011年8月8日号より一部掲載

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<蓄電機器の中身を見る>
新興国や他分野にヒント
既存技術の活用がカギ

東日本大震災から半年足らずのうちに、続々と登場してきた蓄電池を搭載する機器。短期間で製品開発を実現するカギは、従来機種に搭載する技術の有効活用にある。機器そのものの省エネ化が進んだことも、蓄電池搭載が進む追い風になっている。

3時間以上の駆動時間を目指す

 2011年3月11日に発生した東日本大震災から5カ月近くがたった現在、蓄電池を搭載した機器が市場に登場し始めている。その製品分野は、液晶テレビや扇風機といった家電製品だけでなく、電子レジスタやデジタル・サイネージ・システムなどの業務用機器まで多岐にわたる。さらに、各種家電に電力を供給できる家庭用蓄電池単体では、従来は数kWhという大型品が主流だったのに対し、最近では容量を130Whに抑えて値ごろ感を出した小型品も現れてきた。

 これらの蓄電池搭載機器に共通する狙いが、非常用電源として災害時などに機器を駆動させることと、昼間などの電力需要が逼迫する時間帯は機器を電池駆動に切り替えてピークシフトに対応することである。連続駆動時間として、液晶テレビや扇風機では東京電力が震災後実施していた計画停電を目安に3時間程度を、電子レジスタやデジタル・サイネージ・システムでは一般的な1日の労働時間である8時間程度を、それぞれ実現する。一部の機器を除いて、消費電力は35W以下と低く、搭載する蓄電池の容量は35~130Wh程度と、一般的なノート・パソコンと比べて大きく変わらない。

震災後3カ月で製品化

 一見すると、既存の機種に蓄電池を付けたような形なので、すぐに開発できるように思える。だが、蓄電池搭載機器を震災後のわずかな期間で開発するのは、容易ではない。一般的に、機器開発には最低でも半年以上、通常は1年近くの時間がかかるからだ。蓄電池を新たに開発するだけでも、「容量などの仕様決定や、充放電システムの最適化、連続駆動時間や信頼性の評価といった一連の流れを考えると、最低でも4~5カ月は必要となる」(シャープ ビジネスソリューション事業推進本部 システム機器事業部 技術部 参事の美甘將雄氏)。

 このような状況にもかかわらず、蓄電池搭載機器の多くは、震災後わずか3カ月程度で製品化にこぎ着けている。

『日経エレクトロニクス』2011年8月8日号より一部掲載

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