「技術者のための最新中国事典」は、中国に詳しいコンサルタントであり、現役の技術者でもある遠藤健治氏が、最新の中国事情を伝えるコラムです。変化が激しい中国のものづくりや市場、人々の文化や習慣など、日本企業のビジネスチャンスにつながり得る「今」の情報を素早く捉え、独自の分析や対策などのヒントを技術者向けに提供します。

 2011年6月30日、北京─上海間の1318kmの距離を高速走行する中国版新幹線「和諧号」が開業しました。2008年4月に着工してから、わずか3年余りのスピードです。

 国威発揚を狙うこの“偉業”の裏に、安全性を無視した運行速度の設定や、鉄道汚職、突貫工事の存在を指摘するネガティブな報道が中国でも見られるのが興味深いところです。そして、その真偽は、数カ月もすれば分かることでしょう。

 一方、日本の報道は「技術流出のリスク」一辺倒。私からすると何を今更という感じですが、「日本は中国でのビジネスを重視する一方で、中国への技術流出の問題をどこまで真剣に考えていたのか疑問だ」といった論調が支配的です。

 事実、中国版新幹線は、川崎重工業から導入した東北新幹線「はやて」の技術を基に開発しており、外観もそっくり。それでも中国は「独自開発だ」と主張し、米国で特許を申請しようとすらしています。これに怒った新聞の中には、「パクリ新幹線を米国で特許申請」と見出しを付けたところもあるほどです。

 新幹線に限らず、日本メーカーはこれまで知的財産を侵害する中国の模倣製品、すなわち「コピー商品」に散々苦しめられてきました。中国の製造業の技術力が高まるにつれて、本物と見まがうほど精巧なコピー商品も登場しています。しかし、それでもなお、完全なコピーが難しい商品も少なくありません。

〔以下、日経ものづくり2011年8月号に掲載〕

遠藤健治(えんどう・けんじ)
技術者・海外進出コンサルタント
日本と中国を含めたアジアのものづくりに詳しい技術者で、海外進出コンサルタント。京セラ入社後、開発部、生産技術部、品質保証部に勤務。中国工場における製造業務指導が評価され、同社を退社して精密機器メーカーの中国工場にて製造部長や品質部長を務める。現在、業務用機器メーカーの技術者として日本と中国を股に掛けて活躍中。著書に『日系中国工場製造部長奮闘記』『中国低価格部品調達記』(共に日経BP社)などがある。