ネットもデータものみ込む未来の家電

 「サービスの充実」。最近の家電関連の発表でよく聞く言葉だ。いわく「複数の機器を連係させる」「SkypeやTwitterといったインターネットのサービスを家電で利用できるようにする」など。家電でサービスを重視する方向性は今後ますます強まっていくだろうし、ユーザーの利便性が向上するという意味では喜ばしいことだ。

 ただし、サービスという言葉には、「家電本体とは別のもの」というイメージも付きまとう。事実、家電メーカーはややもすると「家電本体のハードウエアやソフトウエアをしっかり作り込んで、それに合ったサービスを後から考えよう」という、製品単体の魅力で売れていた時代の発想に傾きがちだ。しかし、「製品の機能」と「サービス」の境界は本来は曖昧なもの。インターネットに接続して使うことが前提のスマートフォンは、それを如実に示している。

 今後は、家電の機能をインターネット上に構築したサービスで置き換えるという流れが加速していくはずだ。製品単体で実現できる機能にはどうしても限界があるし、それを実現するための技術要件がそろってきたからである。メーカーは、「インターネット上に家電の機能を実装する」ことになる。

 その際にカギになるのが、インターネットに存在する「豊富なデータ」である。

『日経エレクトロニクス』2011年6月27日号より一部掲載

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第1段階<基盤整備>
ネット接続が前提の時代到来
HTML5が作るオープン環境

「さまざまな家電がインターネットにつながる」。そんな時代が本格的に到来しつつある。そのためのオープンな技術として注目を集めているのがHTML5だ。インターネットの世界への移行を橋渡しする製品やサービスも登場している。

インターネットに接続する機器の種類は増えていく

 スマートフォンやタブレット端末、パソコンといった情報端末では、インターネットのサービスを利用するのが今や当たり前である。今後は、情報端末だけでなくさまざまな家電がインターネットに本格的に接続されるようになるだろう。

 音楽サービスを例に考えてみよう。従来は、購入した楽曲をインターネット経由でダウンロードし、端末に蓄えた楽曲を聞くのが主流だった。その進化形として最近、自分が所有している楽曲をインターネットのサーバー群、いわゆる「クラウド」にアップロードしてさまざまな端末で聞けるようにする「クラウド音楽サービス」が相次いで登場している。米Apple社が2011年6月に発表した「iTunes in the Cloud」、米Amazon.com社の「Cloud Drive」、米Google社の「Music Beta」などだ。こうしたサービスが一般的になれば、ネットワークが途切れた場合のキャッシュ用以外にはストレージを持たず、ストリーミングでインターネット上の楽曲を直接聞くタイプの携帯型音楽プレーヤーも登場するだろう。インターネットのサービスが便利になれば、それを利用する機器はおのずと増えていく。

EVがインターネットで会話

 自動車がインターネットに直接つながる兆しもある。トヨタ自動車は2011年5月23日、同社のプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)や電気自動車(EV)が、ミニブログ「Twitter」にあたかも直接発言しているように見えるサービスを発表した。同社が米Salesforce.com社と協力してユーザーに提供するソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「トヨタフレンド」によって実現する。

 トヨタが米Microsoft社のクラウド向けプラットフォーム「Windows Azure」の上に構築したシステム「トヨタスマートセンター」では、ユーザーが所有するPHEV/EVの電池残量や充電プラグの状態といった情報を収集している。こうした情報を利用し、電池残量が少なくなった場合には、トヨタフレンドのシステムを通して「電池残量5%です。充電プラグは接続しましたか?」といった投稿をTwitterに対して行う。つまり、PHEV/EVが自分の状況を把握して「友達としてユーザーに話し掛けてくれる」(トヨタ自動車 代表取締役社長の豊田章男氏)ように見えるのである。

『日経エレクトロニクス』2011年6月27日号より一部掲載

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第2段階<新機能創出>
「新生」のカギは
巨大データ群の活用

家電が生まれ変わるには、インターネット上に機能を作り込む必要がある。重要なのは、膨大なデータに対して高度な解析を行い、家電の機能に生かすことだ。そうした解析に必要な機械学習や分散処理を行うための部品もそろってきた。

家電の進化の余地は大きい

 これまで述べたように、家電の新生にはインターネットへの接続が不可欠だ。しかし、他の企業が提供する既存のサービスを利用するだけでは、「従来の家電機能の改良」にすぎない。「新生」と呼べるような大きな進化を引き起こすには、インターネットの膨大なデータ群を生かすようにサービス側の機能を作り込む必要がある。

 実際に、従来は機器が内蔵していた機能をインターネット上に再構築しようという動きが出始めた。電子番組表(EPG)大手の米Rovi社は2011年1月、「Rovi Cloud Services」というインターネットのサービス群を発表した。同社の広告配信やコンテンツ・メタデータ、コンテンツ検索/推薦/認識、デバイス管理といったサービスをWeb API経由で利用できるようにするものだ。同社 Technology Strategy, Vice PresidentのAdam Powers氏は「セットトップ・ボックス(STB)の機能の一部は、今後はこうしたサービスで置き換えられるようになる」とみる。Rovi社によると、あるメーカーがAV機器向け半導体をRovi社のサービスに対応させる作業を進めているという。

 Powers氏は「インターネットのサービスは実際の機器よりも短期間に開発できる。しかも、一度サービスを開発すれば、さまざまな機器でその機能を利用できる」と語る。AV機器以外にも携帯電話機やタブレット端末にRovi社のサービスを組み込むプロジェクトが進んでおり、車載端末メーカーも興味を持っているという。

 機器の開発でWeb APIを利用しようとする場合、カギになるのが「REST(representational state transfer)」と「JSON(JavaScript object notation)」という二つの技術だ。

『日経エレクトロニクス』2011年6月27日号より一部掲載

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