日本の産業構造の特徴は、多様な産業から成り立っているという点にある。個々の産業を歯車に例えると、日本経済は大小さまざまな大きさの、また、多様な形の歯車から構成されている機械のようなものである。これらがうまくかみ合っているときに、この機械(日本経済)は力強く動くことができる。

 もちろん機械が動くためには、需要という動力源も必要である。国内市場にとどまらずグローバル市場で競争力を持つ産業が、機械全体にパワーを伝える重要な役割を果たす歯車である。自動車産業がこのような役割を果たした歯車の1つであることに異論はあるまい。しかし、自動車産業がグローバル市場からパワーを引き込めたのは、素材産業、とりわけ鉄鋼産業という歯車とうまくかみ合ったからである。

〔以下、日経ものづくり2011年6月号に掲載〕

イラスト:つだかつみ

松島 茂(まつしま・しげる)
東京理科大学大学院 イノベーション研究科 教授
1949年生まれ。1973年3月東京大学法学部を卒業、同年4月通商産業省に入省。大臣官房企画室長、中部通商産業局長などを歴任。法政大学経営学部教授(2001年4月)を経て、2008年から現職。編著書に『イノヴェーションの創出』(有斐閣)など。