がんが進行すると、「腫瘍マーカー」と呼ばれる特定の物質を多く放出するようになる。その腫瘍マーカーの濃度を調べると、がんの有無や進行度合いの判断に役立つ。ボンディングワイヤ大手の田中貴金属工業は、金(Au)微粒子の製造/表面処理技術を生かして、15分という短時間で結果を判定し、しかも高感度の前立腺がん診断薬キットを開発した。

 田中貴金属工業(本社東京)は2010年9月、直径約60nmの金(Au)微粒子を使った「前立腺がん診断薬キット」を開発したと発表した。同社はここ数年、診断薬キットの分野への参入を目指して研究開発を進めてきた。これまでもインフルエンザの診断薬キットなどを開発してきたが、「今回のものは従来の検査法を一新させる可能性がある新技術」と、開発チームのリーダーである同社技術開発部門平塚テクニカルセンターメディカル部チーフマネージャーの岩本久彦氏は胸を張る。

 ベースとなる技術は、nmレベルのAu微粒子を分散させたコロイド(Auコロイド)の製造/表面処理技術だ(図)。田中貴金属工業はAuのボンディングワイヤの世界最大手で、Auを扱う技術には幅広い蓄積がある。貴金属コロイドの製造/表面処理技術は、同社の製品である各種触媒やAuペーストを造る際に必要な中核技術だ。そこには、「世界をリードしてきた」(岩本氏)という自負がある。

〔以下、日経ものづくり2011年6月号に掲載〕

図●均一な大きさ、形状のAu微粒子を造れる
画像のAu微粒子は、直径5nm、20nm、40nm、60nmのものだが、5n~150nmの範囲で造り分けができる。左下のスケールの長さはいずれも50nm。