過去10年、サプライチェーン管理(SCM)の改革によって、調達や製造、物流といった目に見えるコストダウンが進んできました。しかし、製品ライフサイクルが短くなりグローバル競争が激化する中、コストダウンだけの改革では企業内は疲弊するばかりです。本コラム「エンジニアリング・チェーン改革」は、製品の価値を決める設計開発領域を中心に抜本的な業務改革をどう実現するかを、事例ベースで解説します。

 コストダウン、開発・生産リードタイム短縮など、活動のテーマや目標レベルは違っても、多くの企業が課題を解決しようと継続的な改善活動に取り組んでいる。しかし、国内市場の成長が緩やかになり、海外市場、特に新興国市場が拡大期となってきた現状に対応するには、課題の継続的な改善だけではなく、抜本的な業務改革を迫られることが多くなってきた。

 抜本的な業務改革という観点では、従来はサプライチェーンを対象とすることが多かった。受注から納品まで、実際にモノとお金が流れる部分だからだ。しかし近年、このサプライチェーンへ、いかに優れた製品を効率的に供給するかという観点で、エンジニアリング・チェーンの改革も強く求められている。設計開発プロセスを中心としたこのエンジニアリング・チェーンが、製品そのものの価値を決めるからだ。

 当然、エンジニアリング・チェーンの改革は従来も行われてきた。しかし、例えば実機レス検証によるコストダウンや期間短縮など、目先の効果を期待するものだったり、エンジニアリング・チェーンの一部分を対象としたものだったりすることが多い。本コラムでは、エンジニアリング・チェーンの抜本的な改革について、事例をベースに紹介していく。

 第1の事例として今回からは、ある紙製品の製造装置メーカーA社で行った業務改革プロジェクトを取り上げる。まずはプロジェクトの実行計画を策定することに焦点を当て、施策の有効性を検証するプロセスを解説する。

〔以下、日経ものづくり2011年6月号に掲載〕

團野 晃(だんの・あきら)
技術ディビジョン シニアコンサルタント
大手自動車部品メーカー、製造業向けコンサルティング会社を経てO2(東京本社)へ参画。量産機能部品の生産技術、3次元CADによる製品設計から生産工程までをカバー。O2では、その14年に及ぶ経験を生かしたコンサルティング活動に従事している。
O2(http://www.o2o2.co.jp/)は、設計開発領域を中心としたエンジニアリング・チェーンを専門とするプロ集団。顧客企業の業務プロセス改革、高度な技術課題解決を総合支援。SDM、3D-DPRMなど独自の方法論を持つ。