2011年3月11日に起きた東日本大震災では、地震や津波の直接的な影響に加え、燃料や水の供給停止、物流の混乱、サプライヤーの被災、計画停電などにより、多くの工場が生産停止に陥った。その後も頻繁に発生した余震で設備や機器の位置がずれてしまい、再度の復旧作業を余儀なくされている。本稿を執筆している同年4月末時点でも復旧のメドが付かず、がれきの撤去や設備/機器の修復、調達先の確保などに追われている企業が少なくない。

 さらに、首都直下地震や東海地震、東南海地震、南海地震などの大地震が、そう遠くない将来に起きると予想されている。日本では、台風や集中豪雨による大規模な河川氾濫/高潮といったリスクもある。被災地以外の工場にとっても、今回の震災は決して人ごとではない。

 これまでも日本は海外の保険会社などから自然災害リスクの高さを危惧されていたが、今回の震災は諸外国にあらためてこのことを強く認識させてしまう結果となった。そのため、日本の企業は海外の取引先から事業継続の取り組みについて、現在よりも1段高いレベルの対策/対応を要望されることは間違いない。そこで、今回の震災から復興を果たすとともに、リスクマネジメントに関する取り組みをより実質的なものに磨き上げていかなければならない。

 本稿では、災害発生時に事業を継続するための取り組み(事業継続マネジメント、BCM)と、部品や原材料の供給中断リスクをはじめとするサプライチェーン(供給連鎖)に関するリスクを管理するための仕組み(サプライチェーン・リスクマネジメント、SCRM)について解説する。その上で、企業が中長期的に解決すべき課題を明らかにしていく。

〔以下、日経ものづくり2011年6月号に掲載〕

青地忠浩(あおち・ただひろ)
東京海上日動リスクコンサルティング ビジネスリスク事業部 事業継続グループ グループリーダー・主席研究員
全社的リスクマネジメント(ERM)の構築や、事業継続計画(BCP)の策定、サプライチェーン・リスクマネジメント(SCRM)のコンサルティングに従事。電機、自動車、医薬品などの製造業を中心に、火災/爆発、地震、雷/瞬時電圧低下(瞬低)、新型インフルエンザ、サプライチェーンの途絶/混乱などについてリスクの評価とロスコントロールを行っている。2008年から現職。工学博士。専門は安全工学。