第1部<提言>
総力戦に挑むソニー
Androidゲームに命運賭ける

スマートフォン向けゲーム市場が急拡大する兆しが見えてきた。ソニー・グループは同市場に参入する意思を固める。同社の行く末を賭けた、コンテンツ配信事業への挑戦が今始まった。

Androidを舞台にゲーム配信サービスの主導権争いが始まる

 ソニーがゲーム事業で大勝負に出る。これまで自社グループ開発のゲーム機以外へのゲーム・ソフト供給をかたくなに拒んできた同社が、ついに他社端末への供給に踏み切るのだ。

 ソニー・グループのゲーム事業を統括するソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は、スマートフォンやタブレット端末などに向けて、プレイステーション向けゲーム・ソフトと同等のゲームを配信するサービス「PlayStation Suite(PSS)」を2011年内に開始する。まずは、米Google社のソフトウエア・プラットフォーム「Android」を搭載したスマートフォンやタブレット端末に、初代プレイステーション(PS)用ゲーム・ソフトの配信を始める。「近い将来、PSSを通じて数百の初代PS用ゲーム・ソフトを一気に配信する」(ソニー関係者)計画もあるようだ。

 PSSと共に、携帯端末メーカー向けに、「PlayStation Certified」というライセンス・プログラムの提供も開始する。同プログラムは、他社のスマートフォンやタブレット端末上で、PS用ゲーム・ソフトがきちんと動作することを認証するものである。

 ソニー・グループがスマートフォン向けゲーム市場への参入の“シンボル”として最初に発売したのが、日スウェーデン合弁Sony Ericsson Mobile Communications社がSCEと共同開発したAndroid搭載スマートフォン「Xperia PLAY」である。2011年4月から欧州や台湾、香港などで販売を開始した。

 続く2011年秋以降には、 PlayStation Certifiedの認証を受けたAndroid 3.0搭載のタブレット端末「Sony Tablet」を、ソニーが発売する予定だ。

 一方、SCEは携帯型ゲーム機「プレイステーション・ポータブル(PSP)」の次世代機として、「NGP(Next Generation Portable)」(仮称)を2011年末に投入予定である。NGPでこれまでのゲーム・ユーザーを取り込み、シンプルなゲームやソーシャル・ゲームなどを楽しむ、いわゆる「カジュアル・ゲーマー」はPSSを通じて取り込む考えだ。

6億台市場を手中に

 ソニーをスマートフォン向けゲーム(モバイル・ゲーム)市場へと駆り立てるのは、同市場が今後、急成長する可能性があるためである。スマートフォンの中でもAndroid搭載機からPSSのサービスを開始するのは、「台数の多さを追求した結果」(SCE 代表取締役社長 兼 グループCEOの平井一夫氏)だという。

『日経エレクトロニクス』2011年5月16日号より一部掲載

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第2部<大手メーカーの挑戦>
ソニーと任天堂の狙い
端末の機能から読み解く

「Xperia PLAY」と「ニンテンドー3DS」の実機から見えてくるもの。それは、コンテンツ配信サービスにつなげたいというソニーの思惑と、“周囲の人を巻き込む”ゲームを実現したいという任天堂の思いだった。

ソニー・グループと任天堂の戦略

 ソニー・グループと任天堂の今後の命運を握る携帯型ゲーム機が、2011年前半に相次いで市場投入された。

 ソニーが送り込んだのは、日スウェーデン合弁Sony Ericsson Mobile Communications社の「Xperia PLAY」である。同機は、Android搭載スマートフォンを開発するメーカーをソニーが自陣営に引き入れるための“ショーケース”といえるものだ。“PlayStation Certified端末”のあるべき姿を提示し、スマートフォン・メーカーの端末開発を促す狙いがある。

 任天堂は、次世代の携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」を発売した。Peer to Peer(P2P)型の通信機能を強化しソーシャル・ゲームの要素を取り込み、周囲のユーザーを巻き込むゲーム機に仕立てた。

 この二つの携帯型ゲームから、両社の戦略の違いを探っていく。

『日経エレクトロニクス』2011年5月16日号より一部掲載

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第3部<新興企業の戦い>
世界規模の大競争に備え
DeNA、グリーが海外展開加速

DeNAとグリーが海外企業への出資や海外拠点の設立を急いでいる。スマートフォンの普及に乗じて、進出してくる海外勢に対抗するのが狙いだ。Facebook社やAmazon.com社といったIT業界の大手企業がライバルとなる。

スマートフォン・ゲームを巡る主要な新興企業の動き

 「スマートフォン向けゲーム配信サービスで、世界のトッププレーヤーを目指す」(グリー 代表取締役社長の田中良和氏)。国内で、従来一般的な携帯電話機(いわゆるフィーチャーフォン)向けゲーム事業を展開する企業が今、スマートフォンを目指してアクセルを踏んでいる。その代表格が「mobage(モバゲー)」を展開するディー・エヌ・エー(DeNA)と、「GREE」を展開するグリーだ。

 両社ともフィーチャーフォン向けで人気を博してきたゲーム・ソフトを、猛烈な勢いでスマートフォンに移植中。「2010年後半から、Android向けに人気ゲームを20タイトル以上移植した。早急に50~100タイトルまで増やす」(DeNA 取締役 ソーシャルメディア事業本部長兼COOの守安功氏)という。さらに、海外のゲーム・ソフト会社の買収や海外子会社の設立などを矢継ぎ早に実施し、海外でのスマートフォン向けゲーム配信にも力を入れる。

 早急とも思える両社の動きの背景には「このまま立ち止まっていては、海外勢に日本の携帯電話向けゲーム配信ビジネスを根こそぎ持っていかれる」(DeNAの守安氏)という危機感がある。MM総研が2010年12月に公表した予測によれば、2015年には国内の携帯電話サービス契約者のうち、実に51%がスマートフォンを保有することになるという。その後も、この比率はどんどん伸びていく。つまり、日本においても、スマートフォンが携帯電話機の主流となるのだ。

 こうなると、海外事業者が運営するスマートフォン向けゲーム配信サービスが、そのまま日本に入ってくる可能性が高まる。逆に言えば、日本と海外の差がなくなることから、日本のサービスを土台に海外に打って出る絶好のチャンスでもある。

 そこで、DeNAとグリーの両社は、スマートフォンに注力することで日本のユーザーをスマートフォンに移行させると同時に、海外展開を進めて世界の主要プレーヤーに躍り出ようとしているのだ。

『日経エレクトロニクス』2011年5月16日号より一部掲載

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