<提言>
緊急措置から恒久対策へ
電力危機でシステムを変革

東日本大震災によって、東日本は夏に向けて深刻な電力不足が懸念されている。省エネ、創エネ、蓄エネ技術を総動員し、「喫緊の課題に対処」といった短期的な視点だけでなく、中長期的な視野で、次世代の電力システムへと脱皮する大変革が求められている。

エネルギー維新後の電力供給

 東日本では、2011年夏に向けて電力不足が懸念されている。原子力発電所で起きた甚大な事故は、日本の電力システムに大きな打撃を与え、今も収束を見せていない。事故復旧には、長い年月がかかりそうだ。もはや政府や電力会社が描いていた「原子力発電の比率を上げ、電力を安定的に供給する」計画は凍結せざるを得ないだろう。

 日本は第二次世界大戦後、奇跡的な復興を遂げた。そして、地域に1社体制の電力会社が、それぞれの地域の発展と共に、集中管理型で高品質の電力供給体制を築いてきた。だが、今回の原子力発電所の大事故によって、従来の電力供給体制では持ちこたえられないことが明白になった。まさに日本は今、“エネルギー維新”を起こす必要に迫られている。これまでの電力システムの概念を一掃し、新たな社会インフラを構築する時が来ているのだ。

三つの提言

 エネルギー維新に向けた新たな電力システムの在り方として、日経エレクトロニクスでは(1)発電源の多様化、(2)電力の地産地消、(3)電力供給に応じた需要制御、の三つを今後の骨格となる方針として提言したい。これは、集中管理・一方通行型から自律分散・協調型への変革である。

『日経エレクトロニクス』2011年5月2日号より一部掲載

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<賢い省エネ>
運用最適化で25%減は可能
モータや照明に削減の余地

空調や照明といった機器の運用には、まだまだ無駄が多い。モータをインバータ制御にし、照明をLED化することで電力消費を無理せず25%以上減らせる。ただし、省エネ化を一気に進める方法はなく、地道な改善が重要になる。

電力需要ピークを減らすための方策

 大口需要者は25%、小規模事業者は20%、家庭は15~20%──。夏期の電力需要ピーク時における政府の削減目標だ。これを実現するための手段として真っ先に思いつくのが、節電である。昼間には窓のブラインドを開いて外光を取り込むことで室内照明を切ったり、冷房の設定温度を上げたりする。

 もちろん、こうした措置には大きな節電効果がある。しかし、それだけではピーク時に25%も節電するのは不可能だ。大幅な電力不足が予想される2011年の夏までには、対策する時間がほとんどない。当面は節電に加えて、ビルや工場の稼働時間を分散させて乗り切るしかない。つまり、定休日を分散させたり、深夜に仕事をシフトさせたり、あるいは夏休みを分散させたりすることで、ピークの電力需要を減らすわけだ。

 ただし、こうした措置は社会全体に負荷をかけ、生産活動や消費活動に悪影響を与える。2012年以降は同様の措置を取らなくても済むように、中長期的な視野で、企業と家庭で省エネ化を進めていく必要がある。

『日経エレクトロニクス』2011年5月2日号より一部掲載

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<創エネの有望株>
新エネルギーの潜在力を
発電コスト低減で引き出せ

太陽電池や燃料電池、風力、地熱、中小型水力、バイオマス──。日本には、中長期的にエネルギー供給の一端を担えそうな技術のタネが豊富にそろう。課題の発電コストは、技術革新と導入量の増加で解決する。

『日経エレクトロニクス』2011年5月2日号より一部掲載

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<蓄エネの威力>
家や工場、電力網にも蓄電池
電気は蓄えて使う時代に

非常用電源として、にわかに注目を集めるようになった蓄電池。将来的には再生可能エネルギーとセットで、一気に普及することになる。いよいよ、電気は蓄えて使うことが当たり前になる時代が来た。

 「どうしてこの家だけ明るいの?」。

 千葉県に住むY氏の自宅は、停電時でも照明が消えることがない。2011年3月にあった計画停電のときは、周囲が真っ暗になる中、1軒だけ煌々と照明が点灯していた。これを不思議に思った近所の人は、Y氏の玄関のチャイムを鳴らして理由を聞いた。

 秘密は蓄電池にある。住宅に容量1.57kWhの三洋電機製Liイオン2次電池を備えているのだ。屋根に設置した出力3.78kWの太陽電池で発電した電力を蓄え、家庭内の照明や通信機器などに供給する。

 この蓄電池付き住宅を開発したのは三洋ホームズである。2009年11月に発売し、用意した20棟を売り切った。関東には8棟あり、そのうち4~5棟は計画停電の地域にあるという。

 計画停電の別の対象地域にある蓄電池付き住宅に住むA氏は東日本大震災の直後、「蓄電池の容量を増やせないか」と、三洋ホームズの担当者に話を持ち掛けた。テレビやパソコン、冷暖房機器などにも給電し、より快適に暮らしたいと考えたからだ。

『日経エレクトロニクス』2011年5月2日号より一部掲載

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