地震、津波、そして原子力発電所の事故──。2011年3月11日に発生した東日本大震災は、日本の製造業に深刻な打撃を与えた。津波による壊滅的な被害を受けた企業の中には、復旧のメドが付いていない企業もある。さらに東京電力管内では電力が足りず、計画停電を実施。今夏には、再び電力不足が避けられない情勢だ。

 しかし、厳しい状況にもかかわらず、早期復旧を果たした東北地方の企業は決して少なくない。関東地方では、電力不足を乗り切るための試行錯誤が続く。震災からの復旧と電力不足の回避、2つの闘いを追った。

早期復旧への闘い

 東日本大震災の影響で操業を一時的に止めていた東北地方の企業が、再び動き始めた。頻繁に起きる余震や停電などに悩まされながらも、地道に復旧作業を進めたことで、短期間での操業再開にこぎ着けたのだ。

 亜鉛ダイカスト成形や金型製作を手掛けるツオイスダイカスト(本社福島県・大玉村)では、工場内に積んでいたダイカスト用亜鉛材料が崩れるなどのわずかな影響はあったものの、成形機など主要な設備に損傷はなく、同月12日に復旧作業を開始。休み明けの同月14日には震災前と同水準の操業度に戻っており、「生産に支障はない」と同社代表取締役専務の山岸孝浩氏は胸を張る。
〔以下、日経ものづくり2011年5月号に掲載〕

電力不足との闘い

 もう1つの闘いが進んでいる。東京電力と東北電力の管内で夏場の電力不足を回避するための闘いだ。ここでは、現時点で明らかになっている2010年夏の電力需給状況と、ものづくり企業がいかに生産への影響を抑えながら、20~25%の最大使用電力の削減(ピークカット)を実現しようとしているかを紹介する。

 2011年の夏はどれくらい暑いのか。これが、節電のハードルの高さを大きく左右する。夏期は冷房による電力消費が大きく増え、東京電力だけではなく、東北電力でも電力需要が最大になる。猛暑だった2010年夏の最大電力は、東京電力が5999万kW、東北電力は1557万kWだった。

 2011年夏の気温については、気象庁が予測している。同庁による「暖候期予報」では、2011年6~8月の関東甲信越地方の気温は、平年よりも高くなる確率が50%、平年並みが30%、平年よりも低いが20%である(2011年2月24日発表)。東北地方ではそれぞれ40%、40%、30%(同)となる。2011年の夏は、平年よりも暑い可能性がかなり高い。ただし、2010年のような猛暑にはならないと予想されている。

 一方、電力の供給力はどうか。東日本大震災での地震と津波によって、三陸沿岸に立地する原子力発電所や火力発電所が大きな被害を受けたため、6449万kW(2010年3月末)あった東京電力の最大発電出力は、震災直後には約3100kW(供給力ベースの出力)にまで低下した。東北電力も1655万kW(同)から約900万kW(同)に下がった。
〔以下、日経ものづくり2011年5月号に掲載〕