2011年3月11日に東日本を襲った大震災が今、部品不足という試練を日本の製造業に与え始めた。例えば、日本の大手自動車メーカーは、震災直後から休止させていた完成車の組立工場を4月初旬までに再稼働させたものの、震災前よりも車種を絞ったり、稼働率を低く抑えたりしている(表)。原因は、部品メーカーの被災だ。「東北地方にある一部のサプライヤーから安定供給が難しいとの情報を得ている」と、ホンダは説明する。

 「材料である樹脂の確保に奔走している」。自動車部品などを造る、ある樹脂成形メーカーの営業部門の社員は、こう話す。供給不足が懸念される中、早めに材料や部品を調達しておかなければ製品を販売できなくなってしまうという不安が、一部のメーカーを平常時以上の材料の確保に突き動かしているようだ。

 樹脂などの材料よりも供給が不安視されているのが、電子部品である。被災した東北や北関東地方には、先端を行く電子部品の工場が集積しており、工場や生産ラインに損傷を受けた部品メーカーは少なくない。こうした状況から、深刻な電子部品不足がやって来るという不安が市場の一部を覆いつつある。

 こうした不安に駆られたメーカーの動きに警鐘を鳴らすのが、産業用装置メーカーで回路基板の設計開発を手掛ける遠藤健治氏だ。「確かに部品不足という不安はあり、不透明な状況でもある。だが、長期にわたって供給が止まるという状況ではない。過敏に反応すると、市場が本当のパニックに陥ってしまう」と、同氏は言う。

〔以下、日経ものづくり2011年5月号に掲載〕

表●震災後のトヨタ自動車の対応