「ホンダ イノベーション魂!」は、独創的な技術開発で成功を手繰り寄せるために、技術者は何をすべきかを解き明かしていく実践講座。数多くのイノベーションを実現してきたホンダでエアバッグを開発した技術者が、イノベーションの本質に迫る。

 サンバをコンセプトにクルマを開発した例を前回(2011年3月号)紹介した。しかし、これだけではコンセプトとは何かというイメージがつかみにくいかもしれない。コンセプトは、課題に対して完全に一品一様である。そこで、サンバと対照的なコンセプトの例を今回は紹介する。筆者が開発を担当したエアバッグのコンセプトだ。

鼻血が出るより大きな問題とは

 エアバッグをクルマに搭載することは、ホンダの役員のほとんどが最後まで反対か、反対とまではいかないまでも賛成はしなかった。開発期間16年にわたって、その状況は変わらなかった。

 筆者がエアバッグの開発に加わって10年ぐらいたったころ、エアバッグの基本コンセプトを経営陣に報告することになった。筆者は開発責任者になっており、それまで半年以上エアバッグの技術コンセプトを考え続けていたが、まだその本質をつかみきれていなかった。本質を探る糸口として、まずは、なぜみんなが反対するのかを考えた。

〔以下、日経ものづくり2011年4月号に掲載〕

小林三郎(こばやし・さぶろう)
中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授(元・ホンダ 経営企画部長)
1945年東京都生まれ。1968年早稲田大学理工学部卒業。1970年米University of California,Berkeley校工学部修士課程修了。1971年に本田技術研究所に入社。16年間に及ぶ研究の成果として、1987年に日本初のSRSエアバッグの開発・量産・市販に成功。2000年にはホンダの経営企画部長に就任。2005年12月に退職後、一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授を経て、2010年4月から現職。