「雷が落ちた所には、キノコがよく生える」。全国に残る言い伝えだ。これを地でいく企業がある。グリーンテクノ(本社川崎市)だ。キノコ栽培用にと、人工雷を作る装置を実際に開発した。高電圧電源で球形の電極を帯電させ、火花放電を起こす。これにより、キノコの収穫量が1.5~2倍に増えるというデータがあり、キノコを栽培する農家や事業者から期待を集めている。

 「うまくいくかどうかは、分かりませんよ」。グリーンテクノ社長の田中實氏は、思わずこう話した。それは2009年8月のことだった。愛媛県中予地方局産業振興課の職員から、火花放電を発生させたいので高電圧電源を借りたいという依頼が舞い込んだ。話を聞いてみると、シイタケ栽培農家の経営改善の一環として、火花放電による電気刺激をホダ木(シイタケを栽培するための原木)に与えて、シイタケの収穫量を増やしたいというのだ。火花放電とは、電位差が限界を超えて火花が散る現象。自然界では雷が火花放電としてよく知られている。いわば、人工雷でシイタケを増産したいという依頼だ。

 田中氏は断ろうと思った。シイタケはもちろん、農業に関しては門外漢だったし、雷を使うというのも唐突に思えたからだ。だが、愛媛県にもシイタケ農家にも資金はほとんどなく、高電圧電源を貸してくれる会社のメドが全く立たないと知らされ、取りあえず数万円で装置を貸し出すことを決めた。ただ、成果が出るかどうか見当も付かなかったため、冒頭のように県の職員に話したのだった。疑心暗鬼の船出。これが、人工雷によってキノコの収穫量を増やす装置「雷増」を、グリーンテクノが開発するきっかけとなった。

〔以下、日経ものづくり2011年3月号に掲載〕