ありとあらゆる現象の将来を大まかに予測して外さない「固有値」。どんな分野の達人も、この固有値を何となくつかんでいるからこそ、良い仕事ができるのだと私は考えています。例えば、私の研究テーマの1つである「無駄学」の師匠で、『日経ものづくり』でコラムも連載されている山田日登志さん。工場に行くとすぐに、どこがネックかを見抜いてカイゼン策を講じていらっしゃいます。その姿が私の目には、その工場の生産活動の「最大固有値」を瞬時に感じ取り、そこに最も効きそうな要素から順に攻めているように見えるんです。いつか山田さんと、そんな話ができたらいいなぁ、と思っています。
それでは今回も、そんな固有値の魅力にガンガン迫ってまいりましょう! 例として取り上げるのは、昔、テレビで放映されていたアニメ「一休さん」のエピソードから。一休さんは皆さんもご存じの通り、素晴らしくとんちが効いて、私みたいな頭をしたお坊さんね。
(生徒たちから笑いが起こる)
一休さんはある時、お堂にあった大きな釣り鐘を見て「これを指1本で動かしてみせましょう」と言いだしました。これを聞いた周りの人たちは驚きます。「こんな重い物を指1本で動かせるわけがないじゃないか」と。でも、一休さんが釣り鐘に指を当ててしばらくすると…。ナンと、釣り鐘は大きく揺れ始めたのです。
さぁ、ここで皆さんに問題です。一休さんは、自然界のある作用を応用することで釣り鐘を動かしました。それはいったい、何でしょうか。ちなみに、大学の工学部では「構造物の設計では絶対にこれを起こさないようにせよ」と習うのが普通です。ここまで言えば分かりますね。
〔以下、日経ものづくり2011年3月号に掲載〕
東京大学 教授