「ホンダ イノベーション魂!」は、独創的な技術開発で成功を手繰り寄せるために、技術者は何をすべきかを解き明かしていく実践講座。数多くのイノベーションを実現してきたホンダでエアバッグを開発した技術者が、イノベーションの本質に迫る。

 ここまでの連載で、イノベーションの成功を手繰り寄せるためのホンダの企業文化や仕掛けを、順を追って説明してきた。「ホンダの哲学」といった大きなテーマから、「学歴無用」や「ミニマムルール」といった組織としての特徴や仕事の進め方まで、さまざまなフェーズのものを紹介した。

 ただ、各回に個別のテーマを立てて、それぞれを独立して説明したため、互いの連携や関係についての説明が希薄になったかもしれない。例えば、ミニマムルールはイノベーションの鉄則だが、その前に哲学を自分の中にたたき込んでおく必要がある。「理念・哲学なき行動(技術)は凶器」と、おやじ(ホンダ創業者の本田宗一郎氏)は常に戒めていた。具体的な方法論としてのミニマムルールも重要だが、あくまで哲学があってのミニマムルールなのである。

 そこで、今回から数回にわたって、新しい価値を実現していく上で、ホンダのイノベーションや新車開発プロジェクトにおいて中核の役割を担っているコンセプトについて紹介していく。コンセプトの定義は後半に詳述するが、哲学を基盤とし、ホンダの企業文化や仕掛けを糧としながら、新しい価値の実現を強力にけん引するものである。その役割はイノベーションだけに限らず、商品開発や生産革新においても同じ。いわば、価値づくりの主柱を成すものだ。

〔以下、日経ものづくり2011年3月号に掲載〕

小林三郎(こばやし・さぶろう)
中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授(元・ホンダ 経営企画部長)
1945年東京都生まれ。1968年早稲田大学理工学部卒業。1970年米University of California,Berkeley校工学部修士課程修了。1971年に本田技術研究所に入社。16年間に及ぶ研究の成果として、1987年に日本初のSRSエアバッグの開発・量産・市販に成功。2000年にはホンダの経営企画部長に就任。2005年12月に退職後、一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授を経て、2010年4月から現職。