生産拠点の海外移転が進む中、自動車や家電向けアクリル樹脂や炭素繊維といった高付加価値素材の生産だけは、今後も日本に残り続けると考えられてきた。しかし、そんな見解を打ち砕く動きが、化学メーカーの間で広がっている。2011年1月下旬、旭化成ケミカルズはABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂の主原料であるアクリロニトリル(AN)を韓国で増産(増設分は年産24万5000t)することを決定。同時期に東レも、炭素繊維の量産工場(年産2200t)を韓国に新設すると発表した。

 化学メーカーは単にコスト低減効果を求めて海外で増産するわけではない。海外と国内の役割分担を考慮した上で決断しているのだ。その兆候は、実はもっと前から現れていた。

〔以下、日経ものづくり2011年3月号に掲載〕