今のカメラやディスプレイの色では力不足だ──。さまざまな市場から,映像機器の色のリアリティーを求める声が高まってきた。ありのままの色を扱うための技術開発が熱を帯びそうだ。

ウリは「色のリアリティー」

 2011年春,“ある特徴”を備えた産業用デジタル・カメラの本格的な販売活動が始まる。このカメラを開発するのは,静岡県にある,ベンチャー企業のパパラボ。実は,同社はこのカメラを数年前に開発してマーケティング活動を続けていたが,これまではほとんど引き合いがなかったという。ところが,「ここにきて,具体的なニーズが色々と出てきた」(同社 代表取締役の加藤誠氏)ことを受け,いよいよ販売に踏み切るというのだ。

 このカメラの特徴とは,「物体(対象物)の『色』を忠実に撮影できる」(加藤氏)ことである。同社の評価によれば,人の視覚で確認できるすべての色を,平均色差1以下の精度で撮影できるという。この特徴が受け入れられ,既に,ある大学病院への納入が決まっている。病理診断において,顕微鏡に映し出された細胞組織などの色を忠実に観察したり遠隔地に伝えたりしたいというニーズに合致したからだ。これ以外にも,医療分野を中心に,色の忠実さを求める具体的な商談が幾つも動いているようだ。

 一般的なデジタル・カメラでは,こうしたニーズに対応できない。得られる映像の色が,肌の色や青空の色をはじめとして実際の色とは異なってしまうためだ。この色のズレは,あえて色を変化させるというカメラ・メーカー各社の「絵作り」でもあり,各社の競いどころもにもなっている。しかも,一般的なカメラで撮影できる色の範囲は人の視覚よりも狭く,範囲外の色は無理やり範囲内の色に変換されてしまう。パパラボのカメラは,こうした従来のカメラ開発の方向性とは“別世界”のものと言える。

まずは医療分野から

 パパラボのカメラのように,映像機器の「色のリアリティー」を追求する動きは今後,活発になりそうだ。「ありのままの色を扱いたい」というニーズが,医療分野に限らず確実に高まろうとしているからだ。これらのニーズはカメラのような映像の入力側だけでなく,ディスプレイやプリンターといった出力側の機器にも及ぶ。決して,絵作りで差異化する従来の映像機器の世界がなくなるわけではないが,新たな開発軸として商機につながる可能性が出てきた。

『日経エレクトロニクス』2011年2月21日号より一部掲載

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