フラッシュ・メモリ 危うし,ついに「王座陥落」の時

 「壁にぶつかるのが分かりながら,各社一斉にトラックのアクセルを踏んでいる感じ」──。あるNANDフラッシュ・メモリ技術者は,現在の開発現場の状況をこう表現する。

 破竹の快進撃を続けてきたNANDフラッシュ・メモリ。だが,あと3~4年で技術進化が止まる可能性がにわかに高まってきた。微細化に伴い,深刻な課題に直面しているからである。例えば,情報の記憶単位であるメモリ・セルの面積が小さくなると記憶に利用できる電子数が少なくなり,情報の記憶がおぼつかなくなる,といった本質的な問題がある。NANDフラッシュ・メモリ・メーカーは,2011年に20nm世代,2012年に16~17nm世代,2013年に15nm世代と,今後は小刻みに微細化することで延命を図る構えだ。それでも「15nm世代前後が微細化の限界だろう」(NANDフラッシュ・メモリの製造技術者)との声が多い。

 こうした中,メモリ・メーカーによる新たな動きが熱を帯びてきた。ポストNANDフラッシュ・メモリを巡る開発だ。候補は二つある。まず,(1)NANDフラッシュ・メモリの動作原理を踏襲した上で,セルの構造を抜本的に変えたメモリ。そして,(2)全く新しい動作原理を導入した,ストレージ・クラス・メモリと呼ばれる新型メモリである。例えば,記憶素子に抵抗変化材料を用いたReRAMなどだ。

『日経エレクトロニクス』2011年2月7日号より一部掲載

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第1部<全体動向>
2020年に情報量35Zバイト
無尽蔵の需要に新技術で挑む

NANDフラッシュ・メモリの眼前に,かつてない規模の巨大市場が姿を現しつつある。ネットワーク上にあふれかえる膨大なデータが,半導体ストレージの需要を牽引する。その需要を逃すまいと,次世代のメモリ技術開発が急速に進み始めた。

既存のストレージ技術では賄えない巨大市場が登場

 「人類が生み出すデジタル・データの総量は,2020年に35Z(ゼタ)バイトに達する。その時点で利用可能なストレージ装置の容量をすべて合わせても,その半分も満たせないほどの膨大な需要が待ち受けている」──。東芝 執行役上席常務 セミコンダクター社 社長の小林清志氏は,NANDフラッシュ・メモリを利用する半導体ストレージやHDDの未来に,到底賄い切れないほどの巨大な市場が広がっていくと指摘する。

 35Zバイトとは,想像を絶するデータ量である。厚さ1.2mmのDVDに記録すれば,「積み重ねたDVDの高さが,地球から月までの距離の27倍にも達する」(同氏)。現在量産中の3Xnm世代のNANDフラッシュ・メモリで実現しようとすれば,「半導体工場が1万棟あっても足りない」(同氏)ほどだ。

 現在の予測では,こうしたデータの約1/2はネットワーク上のサーバー,または端末上に保存されるものの,残りの1/2は捨てられるとみられている。データ量の爆発的な増加に対し,ストレージ装置で実現可能な総ビット量の向上ペースが全く追い付かない見通しだからである。東芝の試算では,2020年に生み出される全データ量の35%をHDD,5%をNANDフラッシュ・メモリが担うとしている。それ以外の不足部分はストレージ技術への潜在需要になるため,HDDやNANDフラッシュ・メモリだけではなく,光ディスクやテープにも無尽蔵といえる市場が眠っている。

 NANDフラッシュ・メモリにとっては,2020年の5%ですら巨大な市場である。NANDフラッシュ・メモリの総ビット需要は,2010年の 10E(エクサ)バイト(=0.01Zバイト)から2020年の1.75Zバイトへ,175倍に増えることになるからだ。しかも,この5%という数字は 2010~2020年のNANDフラッシュ・メモリの供給ビット成長率が平均68%/年で推移することを前提にしており,かなり控えめな値といえる。2000~2010年の平均で見ると,NANDフラッシュ・メモリの供給ビット成長率は156%/年で推移したという実績がある。仮に2010~2020年の供給ビット成長率を平均100%/年と仮定すると,2020年に10Zバイトと,全データの約30%をNANDフラッシュ・メモリが占めてもおかしくはない。

『日経エレクトロニクス』2011年2月7日号より一部掲載

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第2部<技術動向>
先行する3次元NANDを
ReRAMなど新メモリが追う

半導体ストレージの主役を担うNANDフラッシュ・メモリに,技術的な限界が迫っている。この克服に向けたメモリ・セルの3次元化が,2013年にも始まりそうだ。開発で先行する3次元NANDフラッシュ・メモリを,抵抗変化型メモリ(ReRAM)などが追う。

次世代メモリの開発状況と技術課題
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 次世代の半導体ストレージに向けた,新しい不揮発性メモリの開発が加速している。メモリ・セルを3次元化する3次元NANDフラッシュ・メモリのほか,動作原理を刷新して性能を高めたストレージ・クラス・メモリとして,抵抗変化型メモリ(ReRAM)や相変化メモリ(PRAM),磁気メモリ(MRAM)などがある。

 このうち,まずは2013年ごろに256Gビット以上の3次元NANDフラッシュ・メモリの量産が始まりそうだ。ストレージ・クラス・メモリでは,早ければ2013年に数Gビット,2014年に1TビットのReRAMが量産される可能性が高い。製品化では先行しながら,従来はMビット級にとどまっていた PRAMやMRAMも,大容量化に勢いが出てきた。巨大市場を狙うこれらの次世代メモリを巡り,各社が激しい開発競争を繰り広げている。

『日経エレクトロニクス』2011年2月7日号より一部掲載

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