「渋滞学・西成教授の数学で闘え」は、技術の現場で発生する課題を、技術者が自ら数学を用いて解決する方法を学べるコラム。数学に苦手意識を持つ人でも楽しく学べるように「これだけは」という要点のみをまとめる。

 現象の将来を大づかみに予測して外さない素晴らしきツール「固有値」について解説しています。ある状態に対して何らかの操作をした後の状態(yn+1)は、その前の状態(yn)に「ある数字」を掛け算したのと等しい。このとき、「ある数字」のことを固有値といいます。固有値をrとして、同じ操作をn回したとすると、将来の状態はrnで表せる。微分とか積分とか、操作の種類はいろいろあるけれど、どんな場合でも例外なくこの形に導けます。だから、この式さえ頭にたたき込んでおけば、あなたはもう固有値の達人です。

 前回(2011年1月号)の授業では、この固有値をしっかり押さえる上で、いやっ、人生を歩む上で最も重要な固有値の基本を学びました。皆さん、覚えていますか? r<1なら将来はどんどん0に行く、r=1ならずっと1のまま、r>1なら発散する、というもの。その例として、最初は下手くそだったけど、30年間、師匠に言われた通りに松の絵ばかり描いていたら、有名になった絵描きの話をしました。彼の固有値は、たった0.01の差かもしれないけど、1よりも大きかったわけです。

 さっ、今日はまた新しい話題を取り上げます。私の大好きな映画『ダ・ヴィンチ・コード』の謎。はいっ、では『ダ・ヴィンチ・コード』を見たって人!(生徒のうち1人だけが恐る恐る手を挙げる)

 あれ? ここでわーっと盛り上がる予定だったんですが…(笑)。では皆さん、帰りにDVDを借りて見てください。映画の中で、こんなシーンが出てきます。主人公の大学教授と警察の暗号解読官である女性が、この女性の祖父が所有する金庫を開けようとするシーンです。祖父は既に何者かに殺されていて、パスワードが分かりません。

〔以下、日経ものづくり2011年2月号に掲載〕

西成活裕(にしなり・かつひろ)
東京大学 教授
東京大学先端科学技術研究センター教授。1967年東京都生まれ。1995年に東京大学工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程を修了後、山形大学工学部機械システム工学科、龍谷大学理工学部数理情報学科、独University of Cologneの理論物理学研究所を経て、2005年に東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻に移り、2009年から現職。著書に『渋滞学』『無駄学』(共に新潮選書)など。