「ホンダ イノベーション魂!」は、独創的な技術開発で成功をたぐり寄せるために、技術者は何をすべきかを解き明かしていく実践講座。数多くのイノベーションを実現してきたホンダでエアバッグを開発した技術者が、イノベーションの本質に迫る。

 仕事にはルールが必要だが、少ないに越したことはない。技術者の皆さんは、この意見に同意してくれるだろう。「ルールだけではなく、各種手順(マニュアル)や他部門との調整業務なども少ない方がいい」と切実に思われているのではないだろうか。

 技術開発の第一義の目的は、新しい価値を実現してお客様に喜んでもらうことだ。細かく定められたルールを守ることや、明らかに不要と思われる手順を、ただマニュアルに書かれているという理由だけでやらなければならないことは、技術開発という本業に伴う付帯業務、もっと言えば雑務と感じても無理はない。

 筆者はこうした状況に対して、ホンダでの経験から常々「ミニマムルール」を標榜している(図)。ルールやマニュアル類は最低限に抑えるべきという主張だ。

 今回は、ルールとイノベーションについて考えていく。ただ、ルールとは何かは非常に複雑な問題なのであまり厳密には考えず、ここではマニュアルなどの決め事を含めて広めに解釈する。

〔以下、日経ものづくり2011年2月号に掲載〕

小林三郎(こばやし・さぶろう)
中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授(元・ホンダ 経営企画部長)
1945年東京都生まれ。1968年早稲田大学理工学部卒業。1970年米University of California,Berkeley校工学部修士課程修了。1971年に本田技術研究所に入社。16年間に及ぶ研究の成果として、1987年に日本初のSRSエアバッグの開発・量産・市販に成功。2000年にはホンダの経営企画部長に就任。2005年12月に退職後、一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授を経て、2010年4月から現職。