雑誌 2011年2月号 特集

クラウドを味方に

2011/01/25 13:22
 

「クラウド・コンピューティング」が、IT分野だけではなく、ものづくりの世界にも直接影響を及ぼし始めている。2010年後半には、多くのメーカーが相次いでクラウドサービスとの連携をうたった製品を発売した。その一方で、社内の設計開発基盤をクラウド化し始めたメーカーもある。製造業は、製品と仕組みの両方で付加価値をつくっていくが、この両者をまとめて根底から変える可能性を持っている技術は、これまでなかった。それがクラウド・コンピューティングの本質だ。(木崎健太郎)

Part1:「表」と「裏」

付加価値の新しいつくり方
――ものと仕組みの両面から支援

 クラウド・コンピューティングは、コンピュータによるネットワーク・システム全体を1つのもの(クラウド)と捉え、そこが持つ計算処理や情報共有といった機能を利用することを指す。これが、さまざまな可能性を秘めているとして注目を集めている。

 例えば、米Evernote社のクラウドサービス「Evernote」は、さまざまなデータをクラウド上で保存・検索できる機能を提供する。2010年、このサービスに製品を対応させた企業が相次いだ。

 Evernote社が日本法人エバーノート(本社東京)を設立した2010年6月23日には、ぺんてる(同)がデジタルペン「airpen Mini」をEvernoteに対応させることを発表した。airpen Miniは筆跡をデジタル画像として記録するツールで、作成したメモをEvernoteにアップロード、その後は場所を問わずにスマートフォンやパソコンから検索・参照できる。以降、セイコーエプソンがスキャナ機能を持つ多機能プリンタについて同年9月27日に、リコーが複合機について10月19日に、PFU(本社石川県かほく市)がスキャナについて11月15日に、それぞれEvernoteとの連携を発表した。

 複合機では、リコーのほかにもクラウド対応が盛んだ。富士ゼロックスは2010年3月1日に、中小企業向けにデータ管理機能を提供するクラウドサービスを、同社の複合機や文書管理ツールと組み合わせる形で開始したと発表。キヤノンも同年11月9日、クラウドサービス「Microsoft SharePoint Online」「Googleドキュメント」と連携した。

 テレビについては、クラウドサービスや対応製品を東芝が2010年10月4日、パナソニックが2011年1月6日に発表。ソニーは米国で2010年10月12日に発表した。デジタルカメラに関しても、記憶媒体としてよく使われるSDメモリーカードに無線LAN機能を設けた「Eye-Fiカード」〔アイファイジャパン(本社東京)〕で、さまざまなクラウドサービスへの対応が進んでいる。

 この他、家庭向けプリンタ〔日本ヒューレット・パッカード(HP)、7月28日〕、電気自動車(EV)向けのクラウド型充電システム(NEC、11月8日)といった発表があった。情報関連機器の例が多いが、今後は工作機械や家電製品、各種施設などの可能性も見込まれる。
〔以下、日経ものづくり2011年2月号に掲載〕

Part2:表のクラウド

機器の能力を「外」から引き出す
――多機能とシンプルさを両立

 製品の付加価値を実現する手段は、以前は機構で作り込むか、機器内部の組み込みソフトによる制御で実装するかのどちらかだった。2000年前後から、機器の外部にあるコンピュータとインターネット経由で接続し、コンピュータの処理で付加価値を実現しようという考え方が現れた。しかし当時、機器にとってコンピュータとの接続はいつでもどこでも確保できるものではなかった。

 クラウド・コンピューティングは、この場所の制約がなくなったことによって成立するようになった。例えば無線LANや携帯電話の通信網を用いれば、手近に情報コンセントがなくてもインターネットにアクセスでき、コンピュータが世界のどこにあっても接続を確保できる。機器の立場から見ると、コンピュータの能力をいつでも借りられるようになった。

 すなわち「表のクラウド」として、クラウド上のコンピュータの計算能力をユーザーへの利便性提供のために使えるようになったのだ。このことは、これまで機器だけでは解消できなかった問題に対して解決策を与えるきっかけにもなっている。
〔以下、日経ものづくり2011年2月号に掲載〕

Part3:裏のクラウド

コスト削減だけじゃない
――製品開発基盤が変わる

 パナソニック電工住建ものづくり・調達革新センターの中谷光男氏は、同社電気事業本部の所属だった2009年、技術系システム(PDM)向けに社内クラウド(プライベート・クラウド)を構築した。当初の目的は、計算能力が大きくて余裕のありすぎるサーバを集約し、計算資源や運用コストを節約することだった。この目的は、ほぼ計画通り達成できた。

 台数削減という成果もさることながら、クラウド化が意外とスムーズに進んだこと自体に中谷氏は驚いた。クラウド化が進むということは、どのサーバで処理が実行されるかは分からない状態になるということ。つまり「処理はどこにでも持っていけるようになった」(同氏)。このことが、情報の連携や共有に関しての新しい取り組みをいろいろと可能にする、と同氏は考えた(図1)。
〔以下、日経ものづくり2011年2月号に掲載〕

図1●クラウド・コンピューティングによるサーバ集約
直接的なメリットはサーバの台数が減ることによるシステム関連コストの節減。それが可能になるのは、サーバの計算資源を動的に割り付けられるようになるため。従来は、個別の処理にそれぞれ大きめのサーバを用意する必要があった。ただ、クラウドの本質的なメリットはもっと他にあるという。図は、パナソニック電工の取り組みを参考に本誌が作成した。

Part4:オープン化

顧客が設計に入り込む
――メーカーと生情報を共有

 今後、「表のクラウド」(Part2)と「裏のクラウド」(Part3)が共に普及してきたときに、何が起こるか。クラウドでは、サービスの組み合わせが容易なことを考えれば、情報の相互乗り入れが容易になる。そこで、顧客が製品開発の一部に参加する「ものづくりのオープン化」が進む可能性がある。

 パナソニック電工住建ものづくり・調達革新センターの中谷光男氏は、自社の設計開発システムをクラウド化した延長上に、顧客への情報提供の可能性もあるとみている(図2)。「設計情報をクラウド上に置くメーカーが増えれば、それを互いに組み合わせて参照するのも容易になる。例えば、システムキッチンなど多くのメーカーが関与する製品について、顧客へ情報を一元化して見せることが可能になるのではないか。しかも、その情報は単なるカタログ情報ではなく、設計情報と生産管理情報に結びついた極めて現実的な情報になるはず」(中谷氏)である。
〔以下、日経ものづくり2011年2月号に掲載〕

図2●設計開発情報をパートナーや顧客へオープンに
クラウドを用いることで、外部に設計情報を公開しやすくなる。関連する製品を作る複数メーカーが連携して、互いの製品を組み合わせた提案情報を顧客に提供することも容易。その情報は各メーカー内部の生産計画情報などと結び付いた、確度の高いものにできる。

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