第1部<深層>
用意周到な中国の戦略
レアアース問題は2011年も続く

中国政府の輸出規制を発端とする“レアアース・ショック”が,2011年以降も問題となりそうだ。背景には,自国産業の育成に向けた中国の戦略が透けて見えてくる。部材メーカーだけでなく,家電/自動車メーカー各社に大きな影響を与える可能性が高い。

レアアース問題は人ごとではない

 「2011年におけるレアアース(希土類元素)の安定的な確保は厳しくなるだろう」(レアアースを取り扱う材料メーカーである三徳 技術部 部長の中村英次氏)。

 エレクトロニクス機器からハイブリッド車に至るまで,多種多様な機器の部材として必要不可欠となるレアアース。中国が2010年12月,レアアースの輸出を規制する二つの政策を打ち出したことで,関連する商社や部材メーカー各社は,2011年のレアアースの安定調達について,大きな“ショック”を受けている。

 その一つが,中国商務部が2010年12月28日に発表した,2011年上期におけるレアアースの輸出許可枠(EL枠)の大幅な削減である。2011 年上期のEL枠は1万4446トンに決定され,2010年上期の2万2283トンに対して約35%減少した。仮に,2011年下期のEL枠が同年上期と同程度の設定であっても,2010年全体のEL枠である3万259トンには届かない。2011年は部材メーカー各社にとって,慢性的なレアアース不足に悩まされる1年になる可能性が高い。中でも,レアアースの輸入を中国に9割以上依存している日本の状況は深刻だ。

 もう一つが,2010年12月15日に中国財政部が発表した,レアアースに課される輸出関税の対象物質(元素や化合物)と税率の改定である。

 モータなどに使われるネオジム磁石の原材料であるネオジム(Nd)金属では,輸出関税の税率が15%から25%に上がる。さらに,これまで課税対象外であった鉄(Fe)合金(レアアースを質量の割合で10%以上含むもの)に対して,新たに25%の輸出関税が課されることになる。「ネオジム磁石の添加剤として使用されるジスプロシウム(Dy)は,Fe合金(Dyを80%程度含む)として日本に輸入されている」(双日 化学品・機能素材部門 化学品本部 資源化学品部 エレクトロマテリアル課 レアアース・ジルコニア事業チームリーダーの橋本紀行氏)だけに,ネオジム磁石のコスト上昇は避けられないだろう。

『日経エレクトロニクス』2011年1月24日号より一部掲載

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第2部<対応策>
磁力や発光で代替なし
省利用技術開発が急務

レアアースはエレクトロニクス産業の幅広い分野に使われている。光や磁力の応用分野ではランタニドの特殊な電子配列が関与しており,代替は極めて難しい。脱レアアースを目指すのではなく,効率的に使うための研究開発が必要になる。

レアアースの国内需要

 2009年に日本で利用されたレアアースは約2万5000トン。そのうち,おおよそ36%がガラス研磨,16%がネオジム磁石,10%がNi水素2次電池に使われている。いずれもカメラや液晶テレビ,電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)といった日本の得意分野にはなくてはならないものだ。レアアースの利用は,このほかLEDやセラミック・コンデンサ,光学ガラスなど,さまざまな製品に及んでいる。

 レアアースをほとんど中国からの輸入に頼る状況は今後の安定的な調達を考えると危険が伴うため,脱レアアースを目指し,代替材料の研究が材料メーカーや公的な研究所などで進められている。だが,レアアースを使わずに同じ性能のエレクトロニクス製品を生み出せるかといえば,現時点では極めて難しい。「特にランタニドの場合,他の元素にはない特異な性質を持つため,代替できない用途が多い」(大阪大学大学院 工学研究科 応用化学専攻 教授で日本希土類学会の会長を務める今中信人氏)からだ。

特異な電子配置が新機能を生む

 ランタニド特有の性質──。それは「4f」と呼ぶ電子軌道にまつわるものである。原子核の周囲を回る電子の数は,原子番号が一つ増えるに従い,一つずつ増えていく。この際,最も原子核に近い軌道から電子が増えていくのが一般的だ。

 ところが,ランタニドは少し違う。ランタニドの外殻の電子軌道には,内側から順番に4f,5s,5p,5d,6sと呼ばれるものが存在する。4f軌道に電子が満充填されていない状態では,外側にある軌道の5s,5pに電子が満充填されている。そして,セリウム(Ce)から原子番号が上がるにつれて,4f軌道に入る電子が増えていく。

 外殻の電子軌道である5s,5pが先に満充填状態になることで,内側の軌道である4fは原子同士の結合など外界の影響を受けにくくなる。この結果,波長の広がりが少ない光を発する,高い磁力を発するといった,他の元素では得られない能力を発揮するようになる。

『日経エレクトロニクス』2011年1月24日号より一部掲載

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