2010年のプロ野球日本シリーズは、中日優位の声の中、蓋を開けてみたらパリーグ3位から勝ち上がってきたロッテの優勝で幕を閉じた。「ほら、3位でもいいじゃないですか」と言う人が出てきそうだ。レナード・ムロディナウ氏の著書『たまたま』によると、55対45という実力差のチームが対戦した場合、日本シリーズのような7試合制では確率的には10回のうち4回は弱い方が優勝するそうだ。つまり、強い方が負ける確率は結構高い。

 名大関といわれた先代貴乃花は「強い方が勝つのではない、勝った方が強いのだ」と言った。上記の確率論を体験的に表現したものだろう。同様のことが、企業が市場に問う製品についてもいえる。「良い商品が売れるのではない、売れた商品が良いのだ」と。

〔以下、日経ものづくり2011年1号に掲載〕

イラスト:城芽ハヤト

西 美緒(にし・よしお)
元・ソニー業務執行役員上席常務
1966年3月慶応義塾大学工学部応用化学科を卒業後、ソニーに入社し研究開発業務に従事。1991年にリチウムイオン2 次電池を開発し世界初の商品化に成功。業務執行役員上席常務CTO(マテリアル担当)などを歴任し、2006年に退職。