目指すは化石燃料と価格で競合できる、藻から作るバイオ燃料。自動車部品を主力製品とするデンソーが挑むのは、同社にとって全く新規の分野だ。伝統の自前主義を捨て、会社の枠を超えた取り組みを展開している。一方で、本業を支える技能者の力を助けに、実用化に向けた開発を加速させる。

 デンソーが研究開発に取り組んでいる藻は、軽油に近い油分を体内に含む「シュードコリシスチス」が中心だ(図)。油分を抽出できるだけではなく、残渣は肥料や飼料として使える他、石炭のような固形燃料としての用途にも応用できる。2010年には、シュードコリシスチスを大量培養できる、プールのような培養槽を工場内に建設した。

 工場から排出される二酸化炭素(CO2)を藻に吸収・固定化させ、藻の培養には工場排水を有効利用する。その傍らで、季節や大雨による藻の生育状況などのデータを蓄積しながら検証作業を進めている。現在の設備では1Lの軽油を生成するのに約600円を要するが、将来的には化石燃料とも価格で競合できる200円以下にしていきたい考えだ。

 同社は、リーマンショック以前の原油の高騰や原油枯渇への危機感から、再生可能エネルギの研究に入った。それが、今回の藻からバイオ燃料を抽出する研究開発につながっている。

〔以下、日経ものづくり2011年1月号に掲載〕

図●シュードコリシスチスの顕微鏡写真
シュードコリシスチスは、軽油相当のオイルを体内に作る。成長速度は速く、培養はしやすい。体長5μm 程度の微生物(a)。染色すると、油は黄色く見える(b)。日本国内の温泉で発見されるが、デンソーでは工場の屋外にしつらえたプールのような培養槽で、実証を行っている。