「勝つ設計」は、日本のVEの第一人者である佐藤嘉彦氏のコラム。安さばかりを求めて技術を流出させ、競争力や創造力を失った日本。管理技術がこれまでの成長を支えてきたという教訓を忘れた製造業。こうした現状を打破し、再び栄光をつかむための製品開発の在り方を考える。

 ここ2カ月、緊急提言として円高対策を述べさせていただいた。その内容は、円高局面だけではなく、海外勢が日増しに攻勢を強める昨今の局面においても十分に通用する。ぜひ参考にしてほしい。さて、再び舵を戻し、勝つ設計の本題に移ろう。

 設計者は、顧客のニーズに応える商品を企画・開発すべく、その過程でVE(Value Engineering)やテアダウン、MD(Modular Design)などいろいろな管理手法を駆使しながら最適設計にたどり着く。そして、いざ勝負。商品としての勝ち負けの趨勢が、おおよそここで決まる。ただし、これがすべてではない。勝敗に影響を及ぼす要因がもう一つある。造り方だ。いくら良い設計をしても、それ次第でコストが大きく変わる。

 例えば、鋼材のある部分に直径10mmの孔を開けたいとする。ドリルで開けるか、ファインブランキングで打ち抜くか、はたまた鋳造や鍛造時に開けるか…。孔の開け方もいろいろあるし、どの段階で開けるかによってコストも変わる。孔が必要になる直前の工程で自動で開けた場合は、加工費も運搬費も掛からない。ところが、社内の別の工場や外注先の工場などで開けた場合には、加工費も運搬費も掛かる。一般に工程間の運搬費は原価明細には表れてこないが、それに要した費用は必ず原価のどこかに含まれてくる。要は、造る方法や造る場所でコストが変わり、競争力が変わるのだ。

 設計者は、「造るところは自分のテリトリー外」などと横目で見ていると必ず痛い目に遭う。(コスト)競争力を失って、勝てなくなるからだ。従って、一生懸命に勝てる設計をした後のフォローも設計者の責任であるということを、肝に銘じてほしい。今回は、その点について述べていく。

〔以下、日経ものづくり2011年1月号に掲載〕

佐藤嘉彦(さとう・よしひこ)
VPM技術研究所 所長
1944年生まれ。1963年に、いすゞ自動車入社。原価企画・管理担当部長や原価技術推進部長などを歴任し、同社の原価改善を推し進める。その間に、いすゞ(佐藤)式テアダウン法を確立し、日本のテアダウンの礎を築く。1988年に米国VE協会(SAVE)より日本の自動車業界で最初のCVS(Certified Value Specialist)に認定、1995年には日本人初のSAVE Fellowになるなど、日本におけるVE、テアダウンの第一人者。1999年に同社を退職し、VPM技術研究所所長に就任。コンサルタントとして今も、ものづくりの現場を回り続ける。