写真:栗原克己

 サプライチェーンの最上流と最下流の力関係が、ここ5~6年の間に逆転しています。このことに、お気付きでしょうか。

 20世紀のものづくりでは、最も川下の大企業が一番偉かった。彼らは神様である消費者の無理難題に応えるために、例えば「うちのプレス機械に合わせた素材を持ってきてください」と、川上の素材メーカーなどに要求した。この構図が、昨今の「ガラパゴス」と指摘される過剰品質を招き、最上流では商社が世界中から最高品質の資源を安く買い付けてくる「調達」の仕組みが出来上がった。

 ところが21世紀になると、資源事情が一変しました。それには主な要因が2つあって、1つはご存じの通り、中国の経済成長がエンジンになって資源需要が急拡大したこと。もう1つは、資源メジャーの再編が進んだことです。資源開発は人権問題や汚職・賄賂問題が絡む上に、新規鉱山を開発するためには環境保護など制約条件が厳しく、時間と資金がかかる。それ故、資源屋としては優良鉱山を持つ会社を買収した方が手っ取り早く、M&Aが繰り返されて資源メジャーの寡占支配が進んだ。結果、オールドエコノミーと揶揄された彼らが新たに資金力と政治力を手にして息を吹き返し、巨大な肉食恐竜として暴れ始めたんです。
〔以下、日経ものづくり2011年1月号に掲載〕(聞き手は本誌編集長 荻原博之)

谷口 正次(たにぐち・まさつぐ)
資源・環境ジャーナリスト
1960年3月九州工業大学鉱山工学科卒業、同年4月小野田セメントに入社。資源事業部長などを経て、1994年6月秩父小野田常務、1996年6月専務、1998年10月太平洋セメント専務。2001年6月専務取締役 兼 屋久島電工社長。2004年6月国連大学ゼロエミッションフォーラム理事(産業界ネットワーク代表)などを経て、現在に至る。主な著書に、『メタル・ウォーズ』(東洋経済新報社)、『入門・資源危機―国益と地球益のジレンマ』(新評論)などがある。