クルマの電動化が進展し、自動車技術者にとっても電気/電子デバイスは身近なものになってきている。こうした車載デバイスを分かりやすく解説する新コラム。第1回は、Liイオン2次電池の利用に不可欠なセルバランスICを取り上げる。

 まるで生鮮食料品のようだ――。電池ユーザーの多くは、Liイオン2次電池をこう称する。その理由は、使用する環境によって、Liイオン2 次電池の劣化の様子が異なる点にある。例えば、ノート・パソコンであれば、プロセサに近い電池セルは高温環境下で使われるため、早く劣化するが、離れて置かれている電池セルの劣化速度は遅い。
 電極の巻き取り時の引っ張り力の違いなど、製造時のちょっとしたばらつきでも、セルの劣化速度は違ってくる。通常、国内電池メーカーは、電池パックを組むときに、同じエネルギ容量のセルを高い精度で選別する。しかし、使用環境の違いや製造ばらつきによって、エネルギ容量は使用するとともにばらついてしまう。こうした、ばらつきの発生を防止する術はない。
 ハイブリッド車や電気自動車でも、ノート・パソコンと同様に複数のセルを直列に接続した電池パックを使う。これらのセルの中で、エネルギ容量のばらつきが発生すると、Liイオン2 次電池の能力を十分に生かせなくなる。
 三つのセルを直列に接続した電池パックで理由を説明しよう(図)。3セルのうち1セルだけ、劣化が進んだと仮定する。この電池パックを放電させると、劣化の進んだセルは、ほかの2セルに比べて早く放電終止電圧に達する。これ以上、放電させると過放電状態に陥る。過放電状態に至ると発煙や発火に至る危険性があるため、放電を止めざるを得ない。従って、2セルに残ったエネルギは使えなくなる。

以下、『日経Automotive Technology』2011年1月号に掲載
図 セルバランスが崩れると、Liイオン2次電池を有効活用できなくなる
(a)は放電時、(b)充電時である。セルバランスが崩れると、放電時と充電時ともにLiイオン2次電池の能力を十分に生かせなくなる。