かつて「黒いダイヤ」といわれていた石炭。残念ながら、我が国において商業ベースで産出する鉱山は、北海道釧路市の太平洋炭鉱を最後に、すべて閉山してしまった。ところが、石炭を燃料にしている発電所はいまだ全国に多くあり、しっかりと電気を造り出している。当然、使う石炭のほとんどは海外からの輸入である。

 ところで、燃料として燃えた後に残る石炭灰が再利用されているのをご存じだろうか。フライアッシュとも呼ばれるこの灰は、主にセメント混和材料として再び使われている。

 我が国の発電所から排出されるフライアッシュの量は年間200万t以上といわれているが、その全量が再利用されているのではなく、ある比率でしか使われていない。石炭成分が燃えずに残っている部分があるためだ。未燃分は当然ながら石炭なので、それがコンクリートに混入するのは良くない。正確には、良くないというよりも、求められるコンクリートの性能が出なくなる。

 未燃分が残っているフライアッシュも、実は、ある比率以下ならセメントに混ぜて構わない。規定の性能が出ればよいからである。しかし、それでは一定の比率でしか使えないという制限が加わり、使い勝手が良くない。一番いいのは、混ぜる比率など考えずとも使えることだ。つまり、未燃分を取り除けばよいのである。しかし、そのときは、もともと廃棄物であるフライアッシュに掛けられるコストが問題になる。コストをあまり掛けなくても灰をきれいにできる技術があれば、フライアッシュ全量をセメント材料として再利用できて廃棄物が出ない。結果、セメントのコストが下がり、流動性も向上するので、まさに一石三鳥となるのである(流動性については後述)。

〔以下、日経ものづくり2010年12月号に掲載〕

多喜義彦(たき・よしひこ)
システム・インテグレーション 代表取締役
1951年生まれ。1988年システム・インテグレーション設立、代表取締役に。現在、40数社の顧問、日本知的財産戦略協議会理事長、宇宙航空研究開発機構知財アドバイザー、日本特許情報機構理事、金沢大学や九州工業大学の客員教授などを務める。