「技術者のための最新中国事典」は、中国に詳しいコンサルタントであり、現役の技術者でもある遠藤健治氏が、最新の中国事情を伝えるコラムです。変化が激しい中国のものづくりや市場、人々の文化や習慣など、日本企業のビジネスチャンスにつながり得る「今」の情報を素早くとらえ、独自の分析や対策などのヒントを技術者向けに提供します。

 中国で仕事をするようになった日本人の多くが最初に驚くのが、中国社会の格差の大きさです。中国人の場合、生まれながらにして格差の渦の中に放り込まれるといっても過言ではないほどです。

 例えば、教育の分野。最近は、大学を卒業して入社した中国人社員がいかに優秀であるかが日本にも伝えられるようになりました。日本の大手企業の中には、日本での採用を絞り、中国をはじめ新興国での採用を拡大するところも現れています。

 これはもちろん、今後も大きな成長が期待できる新興国市場において現地のスタッフを増やしたいということが大きな理由ですが、それだけではないでしょう。「ゆとり教育」などの影響で基礎学力不足が指摘されている最近の大卒の日本人社員は、再教育のために時間とコストが以前よりもかかっているというのが現状です。それなら、世界に目を向け、申し分のない学力を備えた人材を採用すればよい、という経営判断が働いたと考える方が自然でしょう。

 といった話を聞くと、中国の教育はすごいという印象を受けると思うのですが、実はそうとは言い切れません。グローバル企業が欲しがる目から鼻に抜ける優秀な人材が多くいる一方で、字も読めない人がたくさんいます。小学校にも通えないほど貧しい家庭がいまだに存在するからです。

〔以下、日経ものづくり2010年12月号に掲載〕

遠藤健治(えんどう・けんじ)
技術者・海外進出コンサルタント
日本と中国を含めたアジアのものづくりに詳しい技術者で、海外進出コンサルタント。京セラ入社後、開発部、生産技術部、品質保証部に勤務。中国工場における製造業務指導が評価され、同社を退社して精密機器メーカーの中国工場にて製造部長や品質部長を務める。現在、業務用機器メーカーの技術者として日本と中国をまたにかけて活躍中。著書に『日系中国工場製造部長奮闘記』『中国低価格部品調達記』(共に日経BP社)などがある。