「ホンダ イノベーション魂!」は、独創的な技術開発で成功をたぐり寄せるために、技術者は何をすべきかを解き明かしていく実践講座。数多くのイノベーションを実現してきたホンダでエアバッグを開発した技術者が、イノベーションの本質に迫る。

 異質な人が集まるとイノベーションが成功しやすくなる。よくいわれることだが、異質で多様な人材が自由に動ける組織をつくることはとても難しい。「指示待ちではなく、自分の考えで仕事に取り組んでほしい」と話す上司は多いが、許容度を超えて異質で多様なアプローチを取ると、「なぜ指示通りにできない」と怒られてしまう。組織には暗黙のうちに、異質性や多様性に対して許される限界があるのだ。

 ところが、イノベーションに求められる異質性や多様性は、その限界を大きく超える。今回は、イノベーションにどんな異質性や多様性が必要なのかを考えてみたい。それには、ホンダがクルマに参入したばかりのころの本田技術研究所が、格好の題材になる。

〔以下、日経ものづくり2010年12月号に掲載〕

小林三郎(こばやし・さぶろう)
中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授(元・ホンダ 経営企画部長)
1945年東京都生まれ。1968年早稲田大学理工学部卒業。1970年米University of California,Berkeley校工学部修士課程修了。1971年に本田技術研究所に入社。16年間に及ぶ研究の成果として、1987年に日本初のSRSエアバッグの開発・量産・市販に成功。2000年にはホンダの経営企画部長に就任。2005年12月に退職後、一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授を経て、2010年4月から現職。