パソコンやテレビをつなぐ
光インタフェースが姿現す

 USBやHDMI,DisplayPort──。パソコンやテレビなどデジタル家電機器で利用する機器間インタフェースは,その種類を増す一方だ。

 規格のバージョンアップも頻繁にあるため,機器が装備を迫られるコネクタの数も増えており,実装コストや筐体デザイン面での制約事項となっている。中でも,実装個所が限られる薄型ノート・パソコンや小型のタブレット端末においては,限られたスペースにいかに効率よくコネクタを配置するかなどが,設計上の大きな課題となり,技術者を悩ませている。

 実は今,こうした課題の解消を狙った新たな機器間インタフェースが姿を現そうとしている。「Light Peak(ライトピーク)」がそれだ。

『日経エレクトロニクス』2010年11月15日号より一部掲載

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第1部<総論>
Intelの野望がよみがえらせた
光配線時代の先兵が登場へ

USBやHDMIなどあらゆる高速インタフェースの伝送役を,一手に引き受けることを目指す,10Gビット/秒の光伝送技術「Light Peak」。それが2011年にも,ノート・パソコンやタブレット端末向けに姿を現す。

コネクタ数を減らしたい

 2010年9月中旬,米国サンフランシスコで,米Intel Corp.主催による恒例の開発者会議「IDF2010」が開かれた。そのセミナー会場で,多数の参加者が一時,立ち往生する騒ぎがあった。

 「えっ,何で?」
 「このために来たというのに」

 IDF初日の目玉として期待されていたセミナーが,急遽,開催キャンセルとなったのだ。セミナー会場の入り口付近は,残念そうに肩を落とす者や,中止の理由を知ろうと係員に詰め寄る者などで,騒然とした雰囲気に包まれた。

 中止理由を知りたがる参加者に対し,会場の係員は前方中央にある展示会場を指さしながら,「セミナーは中止だけれど,代わりにデモを用意している。そこで,詳しい説明を聞いてほしい」と,参加者を中央の展示会場に誘導した。そこにはなんと,テレビやノート・パソコン,外部記憶装置など,セミナーへの参加を目指していた者にとって,垂涎の試作機がずらりと並んでいた。

 彼らが楽しみにしていたテーマ。それが「Light Peak(ライトピーク)」である。

光信号でデータをやりとり

 Light Peakは,Intel社がノート・パソコンや各種のデジタル家電機器に向けて開発したインタフェース技術である。最大データ伝送速度は10Gビット/秒と,USB 3.0の5Gビット/秒に比較して,2倍も高速だ。伝送距離は100mで,USB 3.0の3mとは比較にならない。

 高速かつ長距離の伝送を可能にしたのは,光信号でデータをやりとりするためである。従来の銅線ケーブルではなく光ファイバを使って機器間を接続する,いわゆる「光インタフェース」なのだ。

 なんとIntel社は,このLight Peakを用い,USBやHDMI,DisplayPortなどさまざまなインタフェースを,すべて集約することを目指すと主張し始めた。「Light Peakは,USB 3.0やDisplayPort,PCI Expressなど,プロトコルの異なる各種の信号伝送に利用可能だ」(Intel社)。

『日経エレクトロニクス』2010年11月15日号より一部掲載

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第2部<最新開発状況>
送受信部は20Gビット/秒へ
次世代LSIのロードマップも

Light Peakの受発光デバイスなどの開発が,急ピッチで進んでいる。Intel社の専用ブリッジLSIの開発ロードマップからは,100Gビット/秒への対応も,そう遠くないことが見えてきた。

Light Peakの構成例

 Light Peakの詳細について米Intel Corp.は,まだそのほとんどを明らかにしていない。仕様作りに携わるほかの企業も,「Intel社と機密保持契約を結んでいる」として,情報を表に出すことを極端に制限している。特に伝送仕様などは,ベールにすっぽりと包まれたままの状況にある。

 ただし今回,周辺企業や業界関係者への取材から,おぼろげながらもその概要が浮かび上がってきた。本稿では,現段階で公開されている情報を基にしたLight Peakの姿をまとめる。

Intel社はブリッジLSIを用意

 Light Peakは,伝送路の物理層として機能する。データ伝送速度が10Gビット/秒の全二重通信が可能で,光ファイバを使って100mの伝送を実現できる。ネットワーク接続した多数の機器でのデータのやりとりを処理でき,ネットワーク接続時のトポロジーはピア・ツー・ピア型,およびデイジー・チェーン型に対応する。上位層の伝送プロトコルを限定しないことから,USBやHDMI,DisplayPortの信号などを扱うことができる。

 Light Peakの光送受信回路部は,光ファイバや光コネクタ,発光素子および受光素子を集積した光送受信モジュール,モジュールをメイン基板に実装するためのソケット,半導体レーザのドライバIC,異なるインタフェース規格の信号処理を実行するブリッジLSIなどで構成される。このうち,Intel社が用意するのはブリッジLSIで,そのほかの要素部品は部品メーカー各社が提供する。

『日経エレクトロニクス』2010年11月15日号より一部掲載

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第3部<広がる波紋>
インタフェース業界に激震
光配線導入には追い風か

Light Peakの登場で,パソコン向けインタフェース業界の勢力図が大きく変わりそうだ。ほかのインタフェースと,激しい「イス取りゲーム」を繰り広げる可能性がある。一方,光配線向け部品業界では,閉塞感を打ち破る動きとして期待が高まっている。

Light Peakが及ぼす影響

 Light Peak登場による波及効果は,パソコンやその周辺機器に限ったことではない。その影響は,機器間インタフェース業界や,機器内光配線などを手掛ける部品業界にも広く及ぶだろう。

 現行のパソコン向けインタフェースの中には,Light Peakと用途や役割が競合するものがある。このため,ノート・パソコンやタブレット端末の限られた実装空間を奪い合う,インタフェースの弱肉強食の争いにつながる可能性がある。

 一方,光配線などの部品業界への影響としては,Light Peakの普及によって,民生機器への光配線導入の追い風効果が期待できる。Light Peakという先導役が市場に出ることで,民生機器で「光伝送技術」を使いこなすノウハウが蓄積するほか,光配線で用いる部材コストの低減などが見込めるためだ。

『日経エレクトロニクス』2010年11月15日号より一部掲載

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