「渋滞学・西成教授の数学で闘え」は、技術の現場で発生する課題を、技術者が自ら数学を用いて解決する方法を学べるコラム。数学に苦手意識を持つ人でも楽しく学べるように「これだけは」という要点のみをまとめる。

 前回(2010年10月号)から皆さんに、素晴らしきフーリエの世界をご案内しています。今回は、その第2回。前回が序章だとすると、今回はお待ちかねの本章! この授業の最後には、フーリエがなぜ予測の最強兵器なのかをきっとご理解いただけるはずです。

 っと、その前に、前回のおさらいをしておきましょう。前回、私たちは「どんなに複雑な波でも、シンプルな波を足し合わせることで表現できる」と学びました。「フーリエの定理」です。波と予測の2つ。これらは一見、関係がなさそうで、実は大いにあるんです。

 私たちは、さまざまな現象の将来を予測しようとしています。東京の気温の変化とか株価変動とか、何でもいいです。その過去のデータを、縦軸が現象(U)、横軸が時間(t)のグラフにプロットすると…。そう、上がったり下がったりの波になります。

 この波だって、波は波。フーリエの定理によれば、さまざまなシンプルな波の足し合わせになっています。例えば、yt)=2sint+0.1sin3tの波があるとすると、これは振幅(A)が2で周波数(ω)1の波と、振幅が0.1で周波数3の波の足し合わせという意味です。

 複雑な波をシンプルな波にブレークダウンできたら、フーリエの世界に突入! この裏の世界では、縦軸が振幅(A)、横軸が周波数(ω)になっています。このグラフ上でプロットし直したものが「パワースペクトル」。先ほどの例では波の数が2つでしたので棒グラフみたいになりますが、実世界ではもっとたくさんの波から構成されます。なので、棒の頂上がつながって、また別の波を描きます。

〔以下、日経ものづくり2010年11月号に掲載〕

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西成活裕(にしなり・かつひろ)
東京大学 教授
東京大学先端科学技術研究センター教授。1967年東京都生まれ。1995年に東京大学工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程を修了後、山形大学工学部機械システム工学科、龍谷大学理工学部数理情報学科、独University of Cologneの理論物理学研究所を経て、2005年に東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻に移り、2009年から現職。著書に『渋滞学』『無駄学』(共に新潮選書)など。