「勝つ設計」は、日本のVEの第一人者である佐藤嘉彦氏のコラム。安さばかりを求めて技術を流出させ、競争力や創造力を失った日本。管理技術がこれまでの成長を支えてきたという教訓を忘れた製造業。こうした現状を打破し、再び栄光をつかむための製品開発の在り方を考える。

 恐ろしい現象が起きている。2010年9月14日、ニューヨーク外国為替市場の円相場は一時、1ドル=82円91銭の高値をつけた。円が82円台に突入したのは、実に15年3カ月半ぶりという。

 円が1円上がると、30億円失われるとか300億円失われるとか、企業規模によっていろいろとささやかれる。一般に、優良企業といわれる製造業の売上高営業利益率は、たかだか5~6%。それ故、円高による減収分は、そのまま利益部分を食いつぶしてしまう恐れがある。そこで、賢明な読者には失礼だが、今回はまず円高の影響をおさらいする。案外、分かっているようで分かっていない方もいらっしゃると思うので、できるだけ平易に説明したい。

 ここでシミュレーションするのは、売上高1兆円のものづくり系企業。もし読者の所属する企業が同1000億円であれば、10分の1で考えていただきたい。円高は、1ドル=95円から1ドル=85円に進行したとして試算する。加えて、(1)売上高比率は国内と輸出で半々、(2)原価率は75%、(3)変動原価のうち、約70%が購入品費、(4)海外調達比率が10%、を前提条件としよう。

〔以下、日経ものづくり2010年11月号に掲載〕

佐藤嘉彦(さとう・よしひこ)
VPM技術研究所 所長
1944年生まれ。1963年に、いすゞ自動車入社。原価企画・管理担当部長や原価技術推進部長などを歴任し、同社の原価改善を推し進める。その間に、いすゞ(佐藤)式テアダウン法を確立し、日本のテアダウンの礎を築く。1988年に米国VE協会(SAVE)より日本の自動車業界で最初のCVS(Certified Value Specialist)に認定、1995年には日本人初のSAVE Fellowになるなど、日本におけるVE、テアダウンの第一人者。1999年に同社を退職し、VPM技術研究所所長に就任。コンサルタントとして今も、ものづくりの現場を回り続ける。