マイコン市場で30%という圧倒的なシェアを誇るルネサス エレクトロニクス。2社の統合で誕生した同社はマイコン事業について, 5種の独自コアを継続する方針を打ち出した。その一方で,他のマイコン・ベンダーの多くはARM社のコアを使った製品を主力に据えつつある。ユーザーがマイコン・コアの違いを意識せずにプログラムを書くようになりコアそのものが生み出す付加価値は徐々に小さくなってきた。1社だけ我が道を行くルネサス エレクトロニクスに,勝算はあるのか。

マイコン市場は激しい価格競争へ

 「重複するマイコン・コアの開発を継続するのか」──。マイコン市場で2009年の世界シェアが1位と2位の企業が経営統合して誕生したルネサス エレクトロニクスには,こうした疑問が投げかけられていた。

 2010年4月の統合以降,いわゆる「100日プロジェクト」で成長戦略を議論してきたルネサス エレクトロニクスは,同年7月にその全容を公開した。マイコン事業については,「V850」「SuperH」「RX」「78K」「R8C」という5種のコアの製品群を提供し続ける。その決断は,他の多くのマイコン・メーカーが英ARM Ltd.などの汎用コアの採用を進めているのと対照的だった。

 C言語などの高級言語でのプログラミングが一般的になってきたことで,マイコン・コアの命令セット・アーキテクチャの違いをコンパイラで吸収できるようになった。さらに,マイコンが備える各種の周辺回路を抽象化する試みも始まっている。「過去のソフトウエア資産を動作させるために同じシリーズ製品を使い続けなければならない」といった制約がなくなりつつある。これらにより,マイコン市場がこれまで以上に激しい価格競争に突入するのは必至である。

 マイコン・メーカー各社は周辺回路単体やチップ全体の機能や性能で差異化を図るが,価格競争に巻き込まれないための効果としては限定的だ。このため,開発や製造の効率を高めて低コスト・短期間で新しい製品を供給できる体制づくりに奔走している。「価格競争の激化は仕方のないこと。顧客の要求に合ったものをどれだけ早い段階で提供できるか,という時間の勝負になる」(富士通セミコンダクター 執行役員 マイコンソリューション事業副本部長の井上あまね氏)。

Cortex-M系のマイコンが急増

 ここ数年のマイコン市場で,搭載品種が急激に増加しているコアがある。ARM社の32ビット・コア「Cortex-M3」だ。米Luminary Micro, Inc.(後に米Texas Instruments Inc.が買収)が2006年に発表したのを皮切りに,伊仏合弁STMicroelectronics社,オランダNXP Semiconductor社,米Atmel Corp.など海外勢が続々とCortex-M3採用製品を発表し,その品ぞろえを強化している。

『日経エレクトロニクス』2010年10月18日号より一部掲載

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