日経テクノロジーオンライン
雑誌 2010年11月号 Cover Story

マーチが変える新興国戦略

2010/10/01 14:32
 

向こう5年で自動車市場の主役は先進国から新興国に移る。新興国で勝ち抜けなければ自動車メーカーの未来はない。先進国でも通用する性能・品質を実現しながら、新興国の普及価格帯まで低コスト化する。そのために設計から調達まですべてを見直した日産自動車の新型「マーチ」が新興国戦略を変える先兵となる。

Part 1:小型車でしのぎ削る完成車メーカー

「安いけど古い」「新しいけど高い」を脱皮 最新技術を普及価格帯に

日産自動車の新型「マーチ」が日本の完成車メーカーの新興国戦略を変えようとしている。これまで、先進国の商品をそのまま新興国に持ち込んでいたのを改め、企画の当初から新興国を意識し、新興国の普及価格帯で競争力のある商品を投入するとともに、先進国での小型車の採算性を改善するのが狙いだ。

 日産自動車が2010年7月に発売した新型「マーチ」が売れている。発売後約1カ月半で、受注台数が月販目標の5倍に当たる2万台を突破する好調ぶり。アイドリングストップ機構を搭載した車種が8割を占めており、クラストップの26km/L(10・15モード)を実現した燃費性能が評価されているようだ。日本市場で販売される主力商品として初めて海外に生産を移管したことで広く知られることになったマーチだが、「タイ製」という響きが販売に悪影響を及ぼすことはなかったようだ。
 新型マーチは、日本の完成車メーカーの新興国戦略におけるターニングポイントになるかもしれない。それは、さまざまな意味で、マーチに込められた新興国戦略がこれまでとは異なっているからだ。
 日本の完成車メーカーの新興国における戦略は、普及価格帯に古い世代の商品を充てるという時代が続いてきた。インドにおけるスズキの量販車種が、基本設計では約25年前の2代目「アルト」をベースにした「Maruti800」や、基本設計で約10年前の5代目アルトをベースとした「Alto」であることはその象徴だ(図1)。

以下、『日経Automotive Technology』2010年11月号に掲載
図1 新興国戦略の変化
左は1980年代の2代目「アルト」をベースとしていまもスズキがインドで生産する「Maruti800」、中央は、2007年に広汽ホンダが生産台数100万台を達成した時の式典の様子(車両は「アコード」)。右は2010年に日産が新興国で集中生産する世界戦略車として発表した新型「マーチ」。

Part 2:プラットフォームの刷新で最適化

Aセグメント車にしなかった理由 80kg軽量化、部品点数18%削減

新型「マーチ」は新興国で競争力のあるコストを実現するため、部材調達の現地化を徹底するのと並行して部品点数削減を徹底的に追求した。部品点数が減れば組み付け工数が削減でき、取り付けミスの可能性も低くなるため品質向上にもつながる。トヨタの「Etios」も部品を一から見直し、加工工程も減らして、コストを引き下げた。

 新型マーチに使われた新開発プラットフォームは、当初「Aプラットフォーム」と呼ばれていた。それまでRenault-日産グループで最も小型のプラットフォームはBセグメント車向けの「Bプラットフォーム」であり、Aプラットフォームは、その下に位置するエントリー車向けとして企画されたのである。このため「新型マーチは従来型より小型化する」と予測する向きもあった。

以下、『日経Automotive Technology』2010年11月号に掲載

Part 3:開発力強化する部品メーカー

ヒト、モノの移転が低コスト化のカギ 先行するグローバルサプライヤーに学ぶ

Part1、2で見たように、完成車メーカーは現地の低価格化ニーズに対応するため、部品の現地調達率を高め、部品点数も徹底的に削減している。こうした動きに合わせて、部品メーカーも、これまでのレベルを超えた現地化を図る。具体的には、これまで品質面で難しかった分野でも現地企業からの材料調達が始まっているほか、研究開発の現地化で人件費を抑えつつ、成長市場での顧客対応力を高めようとしている。

 Part1で見てきたように、完成車メーカー各社は新興国を攻略し、また小型車シフトの中でも利益を確保できる事業構造の改革を目指し、これまでにないレベルのコスト削減を目指している。しかも日産自動車、三菱自動車のように新興国で生産した車種を先進国に持ち込もうとしているメーカーもあり、コストは新興国並みでも、品質面では先進国並みが求められる。こうした高いレベルに応えるために、部品メーカーの戦略にも変化が求められている。
 「4~5年前までは、需要地に近いところで生産する『需要地生産』『最適地生産』に対応していれば済んだ」と語るのはNTN会長の鈴木泰信氏である。このときは、国内で使っているのと同じ生産設備を海外に持ち込み、部品や材料も日本から持ち込んで、現地生産する場合が多かったという。
 しかし、新興国市場で現地メーカーに対抗できるだけのコストを実現するには、単に生産を現地化するだけでは足りない。「生産する場所だけでなく、モノ、ヒトも現地化する現地、現物、現人の時代になった」と鈴木氏は語る。

以下、『日経Automotive Technology』2010年11月号に掲載

Part 4:Hyundai Motor社躍進の秘密

コストと品質を両立する生産システム 中国、インドで110万台超を造る

明治大学国際日本学部准教授 呉在烜

 Hyundai Motor社の躍進が続いている。韓国Kia Motors社を買収した1999年から10年間で世界販売台数を2倍超に伸ばし、今年は540万台の目標達成が見込まれている(図2)。
 とりわけ、世界の自動車メーカーがしのぎを削る新興国における市場ポジションは抜きんでており、昨年の中国市場でのシェアはVolkswagen社、GM社、トヨタ自動車に次ぐ4位、インドではスズキ、Tata Motors社に次いで3位を占める。
 同社の躍進を支える要因として筆者は、グローバル市場での品質評価の向上と高いコスト競争力を指摘したい。
 ここで特筆すべきことは、品質やコストを犠牲にせず、海外生産を急増させてきたことである。同社の海外生産は2003年以降に本格化したが、その間も米国市場での品質評価(特にJ.D.Power社の初期品質調査)はむしろ高まっている。このことはグローバル生産台数の拡大が品質に悪影響を与えなかったことを示している。
 一方で、日本企業に比べ3割程度安いといわれる同社のコスト競争力は依然として健在である。新興国市場における同社の強みは、品質に対する価格の安さ、すなわち、高いコストパフォーマンスにある。

以下、『日経Automotive Technology』2010年11月号に掲載
図2 韓国Hyundai Motor社(韓国Kia Motors社含む)のグローバル生産台数
国内生産台数は横ばいだが、海外生産台数が急激に伸びている。(出典:韓国自動車工業会)

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