とても印象的な木漏れ日が差す森のシーンで知られる名作、黒澤明監督の「羅生門」をご覧になったことはあるだろうか。芥川龍之介の小説「羅生門」と「藪の中」に基づいて映画化されたもので、ある殺人事件の真相解明が物語の中心だが、事件を巡り、目撃者、容疑者、そして巫女を通じて証言する被害者の霊が、全く異なった証言をする。物事は視点によって見え方が違うことを、物語の展開にうまく生かしている。
筆者が専門にしているシステム・エンジニアリングでも、同じことが言える。機械に代表されるシステムもまた、視点によってさまざまに姿を変えるのだ。従って、すべての関係者が満足するシステムを作るのは非常に難しい。そこで、システムを見るための「多視点」について紹介していきたい。今回は、「システムを見る多視点とは何か」をテーマにする。
〔以下、日経ものづくり2010年10号に掲載〕
慶応義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 准教授