「勝つ設計」は、日本のVEの第一人者である佐藤嘉彦氏のコラム。安さばかりを求めて技術を流出させ、競争力や創造力を失った日本。管理技術がこれまでの成長を支えてきたという教訓を忘れた製造業。こうした現状を打破し、再び栄光をつかむための製品開発の在り方を考える。

 佐藤式テアダウンにはテーマ別に6種類があり、前回(2010年9月号)はテアダウンの原点である「スタティック・テアダウン」と、実際に組み立てをしながら優劣を比較する「ダイナミック・テアダウン」について述べた。今回は残り4種類を紹介するが、ここからが比較分析の核心である。

 当然のことながら、競合他社の製品のコストは分からない。全く同じねじを使っても、全く同じ径・長さ・硬度の材料を使っても、企業によって購入価格は異なるからだ。技術的には同等であっても、だ。

 そこで、重要になるのが「コスト・テアダウン」。自社製品と他社製品の比較分析を通じてコスト差の要素を抽出し、自社製品のコストテーブルをベースに、他社製品のコストを査定する。つまり、(自社製品のコスト)±〔(コスト差がある)要素のコスト〕から他社製品のコストを推定するのである。もちろん、コストには数量や支払い条件なども影響してくるが、その部分は知り得ない。従って、ここではあくまでエンジニアリング的な観点からコストを比較していく。他社製品の絶対値(真のコスト)は分からないものの、大体のコストは把握できるものだ。

〔以下、日経ものづくり2010年10月号に掲載〕

佐藤嘉彦(さとう・よしひこ)
VPM技術研究所 所長
1944年生まれ。1963年に、いすゞ自動車入社。原価企画・管理担当部長や原価技術推進部長などを歴任し、同社の原価改善を推し進める。その間に、いすゞ(佐藤)式テアダウン法を確立し、日本のテアダウンの礎を築く。1988年に米国VE協会(SAVE)より日本の自動車業界で最初のCVS(Certifi ed Value Specialist)に認定、1995年には日本人初のSAVE Fellowになるなど、日本におけるVE、テアダウンの第一人者。1999年に同社を退職し、VPM技術研究所所長に就任。コンサルタントとして今も、ものづくりの現場を回り続ける。